とある恋人たちの日常。

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「あの……ありがとうございます、ごめんなさい」
 
 彼は、お昼のご飯になるはずだったお弁当を頬張っている。今は夕飯なのに。
 
 彼の食べる姿は満面の笑みで、嬉しそうなんだけれど、申し訳なさがとり払えなくてお礼と謝罪の言葉を伝えた。
 
「え、なんで謝るの? おいしいよ〜?」
 
 開けた瞬間も、彼の目はキラキラしていて、スマホで写真を撮るくらい喜んでくれた。
 温めて食べ始めると本当に嬉しそうで幸せそうに食べてくれる。
 
 凄く嬉しかったけれど……。自分のやらかしでお昼ご飯が夕飯になった。
 
 本当にやらかした。
 
 普段から食事の支度もしているけれど、お弁当を作りたいと言ったのは私なの。せっかくならば彼の好きなものを作りたくて、期待値を上げまくったのにやらかした。
 
 自分用に作ったお弁当と、彼へのお弁当を入れ間違えてしまった……。
 
 ふたり分同じものを作れば良いのだけれど、彼へ作ったハンバーグはチーズを使ってうさぎを型どったハンバーグにしたのだ。
 
 根本的に好みが近いふたりだから、お弁当箱までお揃いにしてしまったのが間違いの原因だと思う。
 
 お昼に気がついて、彼に電話して謝ったけれど、本当に申し訳なさでいっぱいになる。
 
 彼は笑いながら許してくれた。それどころか、私の手元にあった彼のお弁当を夜に食べてくれると言うのだ。
 
 なんでそんなに優しいの?
 
 もう悔しくて、自分が情けなくて部屋の片隅でへこたれていると、彼が帰ってきて今に至る。
 
「もう、謝らない! 俺はこんなに頑張ってくれたって分かって嬉しいし、おいしいし、幸せいっぱいなんだから!」
 
 その言葉が嘘じゃないと伝わるくらい、緩んだ笑顔を見ていると、謝ってばかりじゃなくて切り替えないとダメだな。
 
「食べ終わったら、甘えてもいいですか?」
「いいよ、いいよー。ご飯のお礼にたくさん甘やかしちゃう」
「今日、失敗したのに?」
「俺から言うと失敗も可愛かったし、お昼も夕飯も幸せだから甘やかす!」
 
 それはもうキッパリと言ってくれたから、ふふっと笑ってしまった。
 
 本当に単純な失敗をしたけれど、反省して次に活かそう。そして、今度は失敗しないようにするんだ!
 
 
 
おわり
 
 
 
二〇六、ありがとう、ごめんね

12/8/2024, 11:34:52 AM