視界がふわっと色付くような、世界が一瞬で開かれていくような、そんな瞬間を君も知っているだろうか。
部屋の片隅に置かれた小さな鉢。光を求めて伸びゆく茎と葉。膨らんだつぼみはあと幾日かで綻ぶのだろう。
――ガーベラの花が一番好きなの。
君がいつか手塩にかけて育てたピンクのガーベラは美しく咲いたね。嬉しそうに何枚も写真を撮って、何が違うのか分からないそれを、毎日送って来たよね。
――だけど、もっと好きなのは。
うっすら桃色のにじむそのつぼみのすぐ下に、ハサミの刃をあてる。そういえば昔何かで花も動揺するような話を見たことがある。嘘発見器の整合性に関する立証実験だったか。花は、火を近づけられると人間で言うところの、冷や汗をかくに近い反応をするとかしないとか。正直記憶も曖昧だけど。この花も、今この瞬間終わりを恐れていたりするだろうか。
「まぁ、どうでもいいけど」
パチン、と無機質な音。静かにつぼみは落ちる。ハサミのひんやりとした温度が、妙に心地良かった。
「咲かないで。つぼみのままでいて」
〉好き嫌い 22.6.12
6/12/2022, 10:24:49 AM