向かい風がA男に遠慮なく吹き付ける。
急勾配の坂、一歩一歩進んでいるが正直かなり身体に堪える。
それでもこの歩みを決して止めてはならない。
高みを目指してあの方の元へ、仲間との誓いを今こそ守るのだ。
随分早めに来たというのに既に長蛇の列が出来ていた。
最後尾に並び、A男はリュックサックから宝の地図なるものを取り出す。
入念に書き込まれたそれを再度チェックした。
大丈夫、あの方は普段よりもたくさん刷っているとツイートしていたではないか。
自然と早鐘を打つ心臓を落ち着かせるように深呼吸を一つ。
地方勢にとって都会でのイベントは戦いだ。
飛んでいく交通費、宿泊費。あとは慣れない土地で彷徨いながら人混みに揉まれつつ、着々と削られる体力とか。
そんなものを差し引いてでも今回はどうしても参戦したかった。
同じく地方勢の仲間達の応援と願いとその他もろもろを背負ってA男はあの方に会いにいく。
普段のお礼をお伝えし、必ずや戦利品を持ち帰るからな!
握りしめた拳にぐっと力を込めて開場の拍手がなるのを只管待ち続けた。
……後にコミケの洗礼を受けることになるとは、この時のA男はまだ知る由もない。
10/14/2024, 11:43:27 PM