お題『向かい合わせ』
正面に座る人物。それは、自分と瓜二つの見た目をしている。
もう何度もこうして向き合っているので、今更それに驚くことはない。
そして今日もまた、いつものように問いかける。
「ねぇ。俺は、どうしたらいい?」
問いかければ、彼はいつでも答えをくれる。
「もう辞めなよ。お前には合っていないよ」
仕事を続けるか辞めるか悩んだ時。彼が合っていないと言ったから、辞めることを選んだ。
「ねぇ。次はどうしたらいい?」
転職先を決められなくて、また彼に問いかけた。
「お前なら、こっちがいいよ」
そうすれば、向かいに座る彼がまた答えてくれる。
彼がそう言ったから、新しい職場をそこに決めた。
このやり取りを始めたのがいつからなのかは、分からない。思い返せばかなり幼い頃から、いつも彼に答えを求めていた気がする。
自分では、何も決められないから。
――どうしたらいい?どっちがいい?これは正しい?何をしよう?あれは綺麗?美しい?美味しい?好き?嫌い?
何もかもを、彼に聞いて、彼に決めてもらってきた。
だって、彼は正しいから。彼に決めてもらえば、何もかもが上手くいく。自分で決めるより、ずっといい。
だからまた、問いかける。
「ねぇ。俺は、どうしたらいい?」
いつものように微笑んで、答えをくれる。
「もう、終わりにしなよ」
「どうやって?」
「最期くらいは自分で。でも、そうだなぁ。綺麗な場所がいいよね」
彼がそう決めたなら、もう、終わりにしてしまおう。
その為に、綺麗な場所を探さなければ。
あの山は、綺麗?この川は?あそこは?ここは?
……海は、どうだろう?
「うん、いいんじゃない」
向かいに座る彼はいつものように、微笑んで答えた。
―END―
8/28/2023, 1:38:27 PM