無音

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【59,お題:窓から見える景色】

この小さい窓から覗ける景色なんてたかが知れてる

鉄の格子がはめられた、頭が通るかもわからない小さな窓
僕の部屋で、外を見れる場所はそこしかないから

毎日重い鎖を引きずって、鉄格子にしがみつき外を眺めることが唯一の現実逃避の方法だった

「613番、出ろ」

ああ、僕の番か

今日は何をされるんだろう、いい結果がでるといいけど

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「入れ」

キィ、バタン...ガチャン

「...ッ、おえっ」

ビチャッ ...ドサッ

施設の人が居なくなった途端、僕は吐き気に耐えきれず床に崩れ落ちた

「ゲポッ、ゴホッゴホッ ヒューッ...ヒューッ」

今日はダメだった、みんないい結果がでてないって

「ヒューッ...ヒューッ、ガホッゲホゲホッ」

身体が熱い、熱いのにすごく寒い
手が震えて、呼吸も脈も安定しない

さっきの“じっけん”で注射された薬のせいだろう
再生能力を確かめるという名目で、折られた左足と皮膚を剥がされた右手が
火に炙られたように、ジクジク痛む

「も...ここ、やだ...」

逃げたい、もうここに居たくない

痛む身体をなんとか動かして、鉄格子まで這いずっていく
壁に寄りかかりながら立ち上がって、震える手で冷たい格子を掴んだ

「だれ...かぁ、たすけて...」

カスカスに潰れた声で、憎たらしい程青い空に叫ぶ
声らしい声にはなっていないが、精一杯の救難信号だった

窓の向こうに広がる景色は、相変わらず美しく輝いている
空は青く澄んでいて、小鳥たちは楽しそうにさえずり、風が木々の隙間でおいかけっこをして遊んでいる

「ぁれか...」

実験動物の僕は彼らに混ざることすら許されないのか
ずるずると力が抜け、硬い石の床に倒れ伏した



「助けてあげようか、少年」

上から降りかかってきたその声が、僕には天の助けのように思えた

9/25/2023, 11:02:24 AM