萌葱

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今夜も月は綺麗だ。
煙草を片手にぼうっと月を眺めていると、冷たい夜風が頬を刺した。それから風は、私の髪を乱雑にもちあげ、絡ませる。
もう、冷たくなった頬を包んでくれる、乱れた髪を丹念に直し、撫でつけてくれる温かな手は無くなったというのに。
ああ、夜が酷く憂鬱だ。

ベランダで煙草を吹かしていると、あの人のことを思い出す。忘れたいから、煙草に頼っているというのに、これでは本末転倒だ。
思わず苦笑して、部屋の中にだらりと身を投げた。
あの人が居なくなった今、ベランダで煙草を吸う必要なんてない。あの人がこの部屋に足を踏み入れることなんて、この先絶対に無いのだから。部屋が煙草の匂いで満たされようが構わない。

「寒いでしょ、ごめんね」
と申し訳なさそうに、ブランケットを持ってきてくれ、肩に掛けてくれたあの人はもう居ない。
煙草が苦手なはずなのに、隣に来てくれ、一緒に月を眺めたあの人はもう居ない。
時折こちらを愛おしげに見つめ、微笑むあの人は、
もう……。

視界がぼやけ、ゆっくりと涙が頬を伝った。

綺麗な月を眺めるのも、あの人が隣に居てくれないと、まったく意味がなかった。
ただ、寒さだけが身に染みただけだった。

1/11/2023, 1:48:01 PM