Morris

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マルキェヴィッチは部屋で一人泣いていた。
手元に突然転がってきた権力は、彼を悲しみに浸らせる暇も与えなかった。

寝食を、苦楽を共にした彼女はもういない。
やっと一息、家に帰ることができたのに。
部屋の中は空っぽで、二人で暮らしていた痕跡は綺麗さっぱり片付けられていた。

「クローディア……どうして」


伝えたいことはたくさんあった。
しかし、驚きが頭を混乱させ、どうしての一言しか出てこなかった。疑問に答えたクローディアは、混乱に乗じて自らの唇を彼に重ねた。

「マーヴェ、大好きだ」

自分の気持ちに気付いたときには、クローディアの背中は消えていた。試合が終わり、彼女は一切姿を見せなかった。


ひとしきり泣いた彼の頬を、寒々しい風が撫でた。窓を開けていたことを思い出し、閉めようと立ち上がる。

「……あれ?」

テーブルの上に、黒い箱が置かれていた。
大きさは彼の手のひらに収まるくらいで、中身はさらに小さいものだと判断できる。

『Dear Malkiewicz』

金色の文字で、自分の名前が刻まれていた。
差出人はわからないが、クローディアで間違いないだろう。そう確信し、彼は箱を開けた。

『I wish you the best of luck Claudia 』

彼女の扱うアーツを思わせる、透き通る青のネクタイピンが入っていた。
早速身に着け、鏡台の前に立ってみる。

「よく似合ってるよ、マーヴェ 」

いつものように、薄く微笑んで答える声が聞こえた。


『長い道のり』
「また会いましょう」

11/14/2023, 9:55:26 AM