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別に何に心動かされてもよかろう。

“what moves your heart ? ”

英語の授業で聞かれたその質問にあたしは思わず呻き声をあげた。6月下旬の4限目、もうすぐお昼ご飯の前の英語の授業。腕に引っ付いてくる机が鬱陶しいし、前髪もベタベタで気分は良くない。
ここを耐えればご飯だからと、うとうとしながらも寝ずに受けていた授業の中でこの質問は不意に現れて私をつついてきた。

この文章を使って隣の席の人とお互いに質問しあってみましょうね。と、英語の教師はなんでもないことのように微笑みながら軽やかにそう指示してきた。

あたしの心はあたしのものなので、定型文のように異性に心動かされる必要などないのだ。別に!

と、心の中で何か言い訳めいたことを唱えてみる。そうだ、別に悪いわけじゃないでしょ!フィギュアに心動かされたっていいでしょ!別にさ!ていうか無神経だ!うら若き学生にそんなセンシティブなことを聞くな!

別に、別にと口をとがらす。あたしはいったい何に言い訳しているのだろう。

あたしの心、のはずなのに。まるで正解があるような気がしてしまう。女性の、10代の、学生、としての?

「あなたの心は何に動かされる?」

と聞かれれば、それは恋愛を想定していると、そう言われてもいないのに勝手にそう思って居心地が悪くなる。右手がなんだかむず痒くなって逃げ出したいような気持ち。すみませんね!あたしはフィギュアが好きなんです!と勝手に謝りたくなる。

……何も悪いことしてないってあたしがいちばん分かってるのに。

向かい合った隣の席の男子が質問文をたどたどしく読み上げて、あたしの目を見る。どうなの?と聞かれているような気分。

そうだよな、なんも悪くないな、と思って息を吸い込む、この後に吐き出す息に乗せる言葉を考える。そうだ、あたしは。

「マイハァト、イズーー」

(My Heart)

3/27/2023, 9:36:02 PM