長い沈黙の間、何度も何度も唾を飲み込んだ。
机を挟んで目の前にいる彼には目を向けられなかった。彼もまた、私を見ることなく俯いていたからだ。
窓からは夏の顔をほんの少し覗かせた陽の光が差す。そんな季節の訪れに周りの人々は浮き足立っているように賑やかに談笑を楽しむ。それと裏腹に、ウエイターは忙しなく笑顔を忘れ店内を行ったり来たりとする。
私はどこか自分が遠いところにいるような感覚になる。私と言う存在を確かめるために、机の上に乗せた指を僅かに折り曲げると、疑うまでもなくしっかりと意識の伝達は体の末部に行き着いた。
そのまま、コースターに乗せられたグラスに手を伸ばす。喉が渇ききって痛みを感じるほどでアイスコーヒーにしておいてよかったと浮かぶ。
ついこの前まで、二人でこの喫茶店で同じホットコーヒーを頼んでいたのにな、もうあったかくなったもんだ。そんなことを思いながら。
「……ごめん、別れてほしいんだ」
彼は、ずっと溜めていたような声で、独り言のように私に伝えた。
ああ。
グラスにようやく触れた手には、結露した冷たい温度が流れ落ちていく。飲もうとしていたアイスコーヒーは机から離れることなく、溶けた氷でコーヒー分離した水を揺らす。
そのうち手に流れる冷たい雫と、その上に瞳から溢れとめられない涙が落ちて、私の心をぐちゃぐちゃにかき混ぜていく。
終わりが来るだなんて、想像もしていなかったあの日々が蘇って、私は小さな嗚咽を漏らすことしかできなかったのだ。
4/21/2024, 12:02:32 PM