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【降り積もる想い】
横断歩道を渡る。右足から入り、白線のみを踏んで渡る。14歩で渡り切る道である。

清滝潔(きよたききよし)は道路舗装会社のライン工である。

彼は降り積もった雪の上からでも、白線の位置を把握することができた。寸法を覚えているのだ。

対岸へと渡り切り、来た道を振り返る。学生らしき女性が横断歩道を渡ろうとしている。

清滝はそれとなく彼女を見守る。そう、右足からだ。その位置でいい。女性が4歩ほど歩いたところで、清滝は異常を察知した。歩幅が合わない。このままでは女性は黒いアスファルトを踏んでしまう。彼女には雪の下に隠れた白線とアスファルトの境目が見えていないのだ。

「危ない!」

清滝は横断歩道を走って戻り、女性を突き飛ばした。女性は後ろ向きに転んで雪の積もった地面に手をついた。女性は震える足でなんとか立ち上がり、脇目も振らず逃げていく。

清滝は女性を追わなかった。自分は当然のことをしたまでだ。お礼を言われることでもない。

翌日、清滝は傷害罪の疑いで逮捕された。

12/22/2025, 4:00:34 AM