「取れるもんなら取ってみなよー!」
「返してぇ……!ひっく、うゔ……うわーん」
また、泣かせてしまった。
そんなつもりは無かったのに。
いや、そんなつもりは確かにあった。
「何で泣かせるの!?「お兄ちゃん」なんだから「明里(あかり、読み?が妹)」の事を守るのが仕事でしょ??!」
これで良いんだ。
どんな形であっても、この時間だけはお母さんもお父さんも僕と会話してくれる。
……果たして、本当にそうなのだろうか。
この時間さえも僕の事を「お兄ちゃん」としてしか見ていないんじゃないだろうか。
「ごめん」
「んーん、明里こそごめんね?「明里」の所為で「お兄ちゃん」が怒られちゃった……」
「……明里は明里として扱ってもらった事ある?」
「…分かんないけど、明里は「お兄ちゃん」の「妹」でしか無いんだと思う」
「僕は明里が生まれるまでは「お兄ちゃん」じゃなくて僕として扱ってもらってた」
「いいなぁ~」
「………僕が、死ねば明里は「明里」じゃ、妹じゃ無くなるのかな?」
冗談だった。
そう、軽い冗談。
僕にとっては。
「そうなの!?じゃあさ、「お兄ちゃん」は「明里」の為に死んでくれる?」
「…うん」
僕が死ねば「明里」は普通の明里になる。
嫌だとは言えなかった。
無理だなんてあまりにも明里が可哀想だ。
「!明里良いものしってる!!」
「良いもの?」
「ちょっと待って!」
慌ただしく階段を降りていく。
そんな「明里」の後ろ姿を見つめた。
次第に見えなくなっていく小さな背中。
これで良いのか。
決心が揺らぐ。
死にたくない。
死にたくないけど、死ねばきっと「明里」は明里になる。
両親からの本当の「愛」ってやつを貰えるんじゃないか?
「明里」が生まれるまでその「愛」ってのは僕のだった。
「明里」が生まれてから僕は「愛」ってやつを貰ってない。
でもそれは明里だって同じなはずで、両親は「明里」に見せかけの愛しかあげていない。
僕だって貰いたいけど、僕は年上だから貰ったことがある。
明里は年下だから貰ったことがない。
「「お兄ちゃん」!持ってきた!」
「…ロープ?」
「そう!これを輪っかにして、首にはめて天井に吊るせば死ぬんだよ!」
何故そんな事を知っているのか。
聞こうとはしなかった。
代わりにロープを輪っかにして天井に吊るした。
椅子を持ってきて自分の首にロープをつける。
怖くなった。
当然、死ぬ覚悟なんか出来ていない。
「やっぱ辞める」
「なんで?」
「怖くなったから」
その日から「妹」に露骨に避けられるようになった。
悲しくはなかった。
〜月日が立ち何年後か〜
「好きです」
「私も!!嬉しい」
目の前の人はニッコリ笑う。
「じゃあ「俺」と付き合って下さい……」
「勿論!!!ありがとう」
「俺」は高校生になった。
いまだに「お兄ちゃん」から抜けられていない。
明里にも避けられる。
父親は死んだ。
他殺だった。
「……やっぱりすみません、間違いでした」
「はぁ?なにそれ信じられない」
「本当にごめんなさい」
「俺」は犯人を知っている。
たまたま見てしまった。
警察には言っていない。
警察はそれを自殺だと判断したから。
自殺。
あの日「俺」に「明里」が手渡したロープで。
「「お兄ちゃん」早かったね」
家に帰ると「明里」が待ち伏せていた。
「……よくのうのうと生きてられるな」
気づいて慌てて手で抑えた。
明里が俺に疑問の念を抱いた。
もしかしたら、もう気づかれたかもしれない。
俺が殺害現場を見ていたこと。
「「お兄ちゃん」、ちょっとこっち」
明里はキッチンに向かって歩き出した。
急いで後を追う。
「「お兄ちゃん」。ごめんね?」
「俺」に向かって振り下ろされる包丁。
間一髪の所で止める。
しかし、そのまま勢いを殺せず「妹」に刺さってしまう。
刺された所が悪かったのかすぐに死んでしまった。
「殺人犯」。
警察に「妹」の罪を話せば誹謗中傷も軽くなるのだろうか。
怖くは無い。
悲しくも無い。
こんな事を思うのは何だが、嬉しくなってきた。
楽しくなってきた。
面白くなってきた。
胸の中の不安は既になくなっていた。
たとえ間違いだったとしても、「俺」はこれで良かったと思える。
少々自分勝手すぎるかな?
ーたとえ間違いだったとしてもー
4/23/2024, 12:34:37 AM