秀一と零

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【距離】
零は、左隣に座る赤井をちらりと見た。
寡黙な男は、今夜もウイスキーを煽っている。
街なかで偶然出会い、半ば連行されるように連れて来られたのは、小さなバーだった。
他の客がいないため、店内はゆったりと感じられる。
何故、この男と一緒に酒を飲んでいるのだろうかと不思議に思った。長年の誤解が解けたとはいえ、自分達の関係はもっと温度が低いものだったはずだ。仄かに体温を感じる近しい距離に、気持ちが落ち着かない。
「何を考えているんだ?」
眉を寄せていると、優しい声が頭上から聞こえた。
「ここの椅子狭いから、一つ隣に行こうと思って」
「何故?」
「何故って、他人が近くにいると落ち着かない気分になりませんか?少し離れたほうが…」
話しながらさり気なく体を右にずらそうとしたが、腰にまわされた腕により、叶わなかった。
「それは困るな」
男の胸にぐいっと引き寄せられ困惑する。
抗議しようと顔を上げると、美しい翠の瞳と交わった。真っ直ぐ見つめてくる視線に、囚われたように動けなくなる。
「俺は、君をこれ以上離すつもりは無い」
重なった唇は、二人の距離をゼロにした。

12/2/2022, 4:19:20 AM