鏡の森 short stories

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#012 『日和見』

「増援がきたぞーっ」
 伝令が走り回り、甲軍は後衛側からにわかに湧き立った。振り返れば視界のすべてを埋めるほどの勢いで軍勢がやってくる。
「美味しい食糧もあるよぉ」
 ただ腹を満たすだけでもありがたいのに、その上うまいとは。ポイポイ放られた食糧を受け取り、かじりつき、飲み下す。力がみなぎり、今なら分裂だってできそうだ。
 見回せば、仲間たちはとっくに分裂・増殖のターンに入っていた。わらわらと倍々に増えた味方で甲軍は一気に膨れ上がる。
「分裂が下手な奴らがいるなぁ。おまえら丙軍か!」
 思うように分裂できずにもがいていたら、甲軍のエースに笑い飛ばされた。近くには他にも分裂し損ねた同郷の仲間がわらわらしている。
 甲軍の後衛はすでに後方を埋め尽くし、土壌を丁寧に整えていた。
「いいよ、いいよ。日和見菌ども。こっちについててくれるだけで十分さね」
 甲軍の年寄りがヘラヘラ笑いながら脇を通り過ぎていく。
「さて、年寄りはさっさと出て行こうかね。丙軍よ、寝返ったりはしないでおくれよ」
 去り行く一群に皆で手を振って見送る。
 今日の王国は質のいい甲軍で満たされて、最近では一番のいい日和だった。

《了》
お題/善悪
2023.04.27 こどー

4/27/2023, 3:45:39 AM