ありす。

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今日も彼女の隣は暖かい。

部屋の小さな窓から桜吹雪が見えた。
どうやら彼女と出会って12回目の春が来たらしい。
彼女とあった日も春だった。
けれどこんなに気持ちのいい日ではなかった。
目を閉じても彼女の隣にいても…あの日々のことは忘れられない。

雨の日だった。
身体に当たる雨は冷たくて突き刺すように痛く…もう生きる感情すら流してしまうほどの雨だった。

自分が産まれた理由は知らない。

辿り着いた誰もいない小さな公園で、自分が産まれた理由を探していた。
歩き疲れた足は棒のように固くなっていき、ついにその場に倒れ込んでしまう。
いつの間に怪我をしていたのか血が滲んでいる。

死ぬのだろうか。

吐いた息は誰にも聞こえず雨の音と共に消えていく。


「大丈夫?」

自分の息遣いが聞こえた。
雨の音に支配されていた耳も、雨ばかりを映していた目には、女が映っていた。

傘を差し出して女は「大丈夫だよ」と言いたそうに笑顔を浮かべている。

近寄らないでほしい。

そう拒絶の眼差しを向けると少し困った顔をして「何かあったら来てね」と女は言うと傘を置いたまま去っていった。


彼女と出会ってからひとつ季節を超えてしまった。
あの日から変わらず彼女は、顔を見せにやって来る。

「今日から高校生なんだ。クラスの子達と仲良くなれるといいなぁ」

「親友が出来たよ!」

「見てよー…テストでこんな点数取っちゃって」

「今日から2年生になったんだ!後輩も出来て」

またひとつひとつと季節を超えしまう。

「相変わらず…君は何も言ってくれないね。口下手なのかなー?」

相変わらずなんて…こっちの台詞だ。
飽きもせずに毎日毎日、お喋りに来ては喋るとすぐに帰ってしまう。
何度、季節を超えても君はいつも通りに来る。


「彼氏が出来たよ」


ある日そう言ったきり君は来なくなってしまった。
初めて感じたのは喪失感に近いなにか。
君に会うために僕は歩き出した。


町なかに来ない僕が驚いたのは人の数。
それとあまり好ましくない臭い。
鼻のむずむずを抑え人混みの中をかけて行く。

大通りを進んでいくと彼女に似た後ろ姿を見つけた。
コンビニの駐車場で男と何か話しているようだ。
彼女が言っていた彼氏だろうか…でも話に聞くような仲のいい雰囲気は微塵も感じない。

足取りを速め近づいていけば、いつも馬鹿みたいに笑っているはずの彼女の顔は涙でグシャグシャになっていた。

「うるさいな!お前とは遊びだったって言っただろう」

「そんな…ひどいよ」

間近で見るもうひとつの彼女の顔に僕は頭が真っ白になる。
こんな気持ちになるのは初めてだ。
僕は彼女を泣かせている元凶に走っていく。

「うわっ!!??なんだこいつ!!」

「あっ……」

思いっきり飛びついていき男の顔に傷を付けた。
男は僕と彼女を残して慌てて走り去っていった。

「あっ……ふふ…ありがとうね。助けてもらっちゃったね」

僕はあの日から君に助けてもらったから。
僕がそう微笑むと彼女もいつもの笑顔になっていた。
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今日も彼女の隣は暖かい。
あの日から変わらずに暖かいままだ。

「また私の話し聞いてないよね。どこに行こうかって言ってるのに」

どこでもいいさ。

そう口に出しそうになる…まだまだ僕は口下手みたいだ。

「今日はどこに行くの?」

「にゃー」

「おおっ!久しぶりに…にゃーって言ったね!やっぱり猫って気まぐれなのかな?」

口下手な僕の精一杯。
ずっと君の隣にいられるように。
いつか言える日まで。

3/14/2024, 8:38:54 AM