たまき

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#75 喪失感


王城の夜会で起きた事件から数日後。

表向きは民を虐げていた貴族の大粛正、
真の目的は母を追い詰めた妃への復讐。

踊り子から生まれた王女が何年も掛けて計画を立て、父たる王すら巻き込んで成し遂げた。

彼女は自室の窓辺で庭園を眺めながら物思いに沈んでいた。

「ねえ、知っていて?ああ、独り言だから返事はしなくていいわ」

事情を知っている侍女に話しかけた。

「お母様は、あの女に踊り子の命たる足も先の未来も奪われたのに、最期まで幸せそうにしていたわ」

ふぅ、と溜息ひとつ。

「私はお母様が喜ばないと分かっていて、自分の為に計画を実行したわ。歓喜に満ちた一瞬だった。でも、それだけ」

振り向き、侍女に顔を向けた。

「喪失感って生きていないと味わえないのね」

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金華様が亡くなられた時とは違い、涙もこぼされず気丈に振る舞っておいでだが、姫さまの抜け落ちた表情からは、底知れぬ嘆きが感じられた。

身勝手な仇討ちと仰るが、それも金華様への愛情あってこそ。そして今も愛情深さ故の寂寥を受け入れてらっしゃる。

…立派にございます、姫さま。

死にゆく者は、心にある物すべてを持って逝かれますが、残された者は失ったまま生きていかねばならない。

私めでは何の慰めにもなりませんでしょうが、
せめて、お側に。



独り言だからと言う王女に応えるため、
侍女は深く頭を下げて涙を隠した。


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9/8投稿の#71「踊るように」後日談。
復讐が終わって初めて喪失感に襲われた王女。
今回は、残された人が感じる気持ちを喪失感として書きました。
心に空いた穴って埋まらないものです。時間と共に見ないふりが出来るようになるだけ。でも、それは生きてるからこそ、感じるものです。

普段は内容に影響ない程度にしか手直ししないのですが、投稿後に読み直したら、姫さまが予想以上にメンタル強めだったので、それに合わせて改稿。
侍女も共感・同情から、生きてなんぼの精神に切り替わりました。

9/10/2023, 1:29:21 PM