山猫

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表通りは雨だったが、、路地を一本入ると雪がちらついていた。気温が十度は下がったと思う。
通り雨があるなら、通り雪も降るだろう。
雨宿りがあるなら、雪宿りもあるだろう。
わたしは路地を少し入ったところにあった立ち飲み屋で雪宿りをさせてもらうことにした。
立ち飲み屋なので、もちろんみんな立って飲んでいる。路地に向かってそれぞれの背中とお尻を向けて立っている。その向こうの店主らしき老人の顔だけがこちらを向いていた。
老人はわたしを認めると、顎を少しだけ左に振って、そっちが空いてるよ、と教えてくれた。
何にする?
客を客とも思わないぶっきらぼうな口調で老人は訊いてきた。
雪が降り出したら、そりゃあ熱燗でしょ。
老人はそれに返事もせず、青菜の煮浸しをんたしの前のカウンターにすとんと置いた。
アテは?
やはり老人はぶっきらぼうに訊いてきた。店主がそういう口調で話し、それに違を唱えない客だけが集まるのが、この店のあり方なのかもしれない。
おでんの盛り合わせで。
さっきからおでんの出汁の良い匂いが漂ってきていた。
生姜醤油も。
とわたしは付け足した。
了解。
と老人は言い、今度は熱燗とぐい呑みをわたしの前に置いた。
冷えると思ったら、外の雪は本降りになっていた。
わたしは手酌の酒を一口で飲み干した。
明日の朝にはけっこう積もってるかもしれない、そう思い、そう願いながら、わたしは二杯目も飲み干した。
雪の降りはさらに強くなっていた。

9/27/2023, 12:57:51 PM