喩えるなら秋みたいな音色だった。
弦をなめらかに滑らし、深い音で庭を彩る俊介の姿に胸がきゅうっと締め付けられると同時に、演奏を見ている自分との距離も思い知った気がした。
つい先週、かっこいい俊介が見たいからという理由でバイオリンを演奏して欲しいとお願いしたのは自分だったが、まさかこんなに上手いとは思っていなかった。
夢中になった演奏も終わり、嬉しさとちょっとの後悔をかみ締めていると、俊介が蝶々柄のティーカップにルイボスティーを注いでくれた。
「俊介ってバイオリン上手いのね。」と言うと、
彼はなんでもないように
「お気に召されたようで良かったです。」と笑った。
彼が去った後、くるくるとティースプーンを回しながら、私はひっそり来年の誕生日には薔薇柄のティーカップを買ってもらうことに決めた。
ちょうど、庭の中心で鳩時計が3時を打っていた。
余韻に浸りつつ、白紙のわた雲に「佐伯俊介」なんて書いて遊んでいると、遠くから自分を呼ぶ声が聞こえた。時計も随分進んでいるし、どうやらレッスンの時間になったようだ。
渋々部屋に向かいながら、去り際に振り返ると、俊介がカップを片付けていた。
その背中の大きさに、何故だか胸が苦しくなった。
ああ、どうして、こんな初恋。
俊介が奏でたバイオリンは、春というにはあまりに
大人びていた。
9/26/2024, 2:12:31 PM