いろ

Open App

【海の底】

 月光の差し込む黒い海を君と二人で眺めていた。このまま暗くて深い海の底まで二人でどこまでも沈んでゆければ良いのにと望むくせに、本当にそんな道を選ぶ度胸は互いにないんだ。立場も、名声も、家族も、何一つだって切り捨てられない僕たちは、朝になればまたそれぞれの日常へと戻るだけ。
 海の底の世界を夢想しながら、夜の海辺で二人きりで手を繋いでいる今この時間だけが、僕たちの交わす全てだった。

1/21/2024, 8:44:37 AM