G14

Open App

 ハロー。
 私、須藤霧子。
 どこにでもいる、今が一番大事な女子高生!
 そんな私には秘密がある。

 それは私は転生者であると言う事。
 今朝の事なんだけど、ここが『パンと少女とファンタジー』というゲームの世界だと気づいたの。
 別にそれだけだったら喜ぶんだけど、このゲームはバグゲーとして有名なの……
 今朝だって遅刻しそうだったから、パンを咥えて転校生とぶつかって、その衝撃で吹き飛ぶという『ぶつかりバグ』が発生。
 そして、そのまま教室の自分の席に着席したってわけ。

 意味が分からない?
 そうね、私もよく分からないわ。
 バグに意味を求めてはいけない。

 そして私の心中は憂鬱だった。
 だって、このゲームには他にもたくさんのバグがあるからだ。
 これからの学校生活どうなっちゃうのー(ガチ泣き)


 ◆


「よし、みんな揃ったなな、じゃあホームルームを始める」
 私が勢いよく着席すると同時に、担任の号令でホームルームが始まる。
 私のダイナミックな着席に誰も驚かない。
 それもそのはず、この世界ではこんな事は日常茶飯事。
 せいぜい『今日は災難だったねw』と友達に笑われるくらい。
 なので、何事も無いようにHRは進行する。

「連絡事項の前に、転校生の紹介だ」
 転校生の紹介!
 このゲームのジャンルは乙女ゲー。
 なので、『パンを咥えた少女が少年とぶつかった』ならば、『ぶつかった少年が転校してくる』のは自明!

 だが残念ながら、ここはバグゲーの世界。
 転校生はやってこない。
 というのも『ぶつかりバグ』のとき、当たり判定の処理をミスって、私と同じように飛んでいったの。
 世界のかなたに……

 なので彼は学校に来ることは出来ないわ。
 ないんだけど、転校イベント自体は発生するのよ……
 代役を立てて……
 そこまでやるなら本人をワープさせろよ思うけど、そうはならないのはこのゲーム。

 しかも代役の人選がとんでもないの。
 『ぶつかりバグ』が発端のこのイベントは頭が痛くなる展開になる。
 だから正直もう帰りたいんだけど、椅子に根が生えたように動けない。
 これがゲームの強制力?
 バグゲーのくせに、そこだけは律義なことしやがって!

「入ってくれ」
 私が逃げたがっていることも知らず、先生は転校生(?)を呼ぶ。
 そこに入って来たのは――

「フハーハハハ、我は魔王。 下等な生物どもよ、我にひれ伏せ」
 魔王であった。
 意味が分からない?
 大丈夫、このバグに遭遇したプレイヤー全員が首を傾げたから。
 あまりにも突拍子もない展開に、『隠しルートでは?』と疑った人もいて、ゲームを解析したらしいのんだけど、純粋なバグと判明。
 どうバグったら、こうなるんだろうね?

 本来のイベントでは、主人公の私は『朝は気づかなかったけど、よく見ればイケメン』の彼にトゥンクするはずだったのだけど……
「ククク、ハーハッハ」
 私を待っていたのは、百年の恋すら冷める展開だった。
 転校生は、私のストライクゾーンのど真ん中だっただけに残念で仕方がない。
 バグさえ起こらなければ、ロマンスが始まったのに……
 バグさえ起こらなければ!

 あとなんか、風に乗ってバラの香りもするね。
 転校生が登場したときのバラのエフェクト、こういう意味だったのかと感心する。
 なんで窓を閉めきった室内に風が吹くかは、考えても意味がない。 
 だってバグゲーだから。

「じゃあ、自己紹介を」
「思いあがるな、人間ども。 貴様らに名乗る名は無い」
「はい、ありがとう」
 そこ流しちゃダメでしょう、先生。
 クラスメイトも騒いでいるけど、『厨二病、初めて見た』といったもの。
 まあ、突然『魔王だ』と言っても誰も信じんわな。

 私が世の中の不条理を嘆いている時、突然魔王が私の顔を凝視する。
「須藤霧子、貴様を殺す!」
 親の仇でも見つけたように睨みつける魔王。
「なんだ、須藤。知り合いか?」
「いいえ、初対面です」
 前世ではゲームの中で殺し殺される仲でしたが、今世では初対面です。
 ちなみにこのセリフ、ゲーム終盤の熱い展開の時の物。
 間違っても、何も始まってない今に吐くセリフではない。

「ならちょうどいい。 須藤の隣の席が空いてる。 そこに座れ」
 先生、冷静過ぎやしませんか?
 彼、私を殺すと言ってるんですよ?
 生徒の生命の危機ですよ?
 嘘でもいいから、『生徒は俺が守る』って言ってくださいよ。

 私が心の中で文句を言っている間も、魔王は私を睨みながら、ゆっくりと指定された席に移動する。
 だが不思議なことに、空いているはずのその席はもう座っている人間がいる。
 誰かって?
 転校生です。
 なんで座っているかと言えば、『それは転校生のための席だから』という他にあるまい。

 ちなみにワープとかではないです。
 最初からここに座っていて、今でもぶつかった転校生は飛んでいるし、なんなら『ぶつかりバグ』が無くてもここにいる。
 何が言いたいかと言うと、この世界に転校生は二人いるってわけ。
 別に伏線とか設定とかはない。
 純粋な(略)
 開発チームは。本当にテストプレイしたのだろうか?

 という訳で、魔王は指定された席を素通り。 
 そのまま、教室の扉の前まで移動する。
「貴様の顔、覚えたぞ」
 捨て台詞を吐き、教室から去っていく魔王。

 頭が痛いイベントも、これで終わり。
 だが残念ながらこれは序の口。
 他にも頭痛が痛くなるイベントが目白押し。
 私の物語は始まったばかりだ……



 ふと窓の外を見れば、世界を一周したのか、今も吹っ飛んでいる転校生が見えた
 はあ、私も風に乗ってどこかに行きたいな……
 辛い現実を前に、私は妄想するしかないのだった

4/30/2024, 11:44:18 AM