ハロー。
私、須藤霧子。
どこにでもいる、今が一番大事な女子高生!
そんな私には秘密がある。
それは私は転生者であると言う事。
今朝の事なんだけど、ここが『パンと少女とファンタジー』というゲームの世界だと気づいたの。
別にそれだけだったら喜ぶんだけど、このゲームはバグゲーとして有名なの……
今朝だって遅刻しそうだったから、パンを咥えて転校生とぶつかって、その衝撃で吹き飛ぶという『ぶつかりバグ』が発生。
そして、そのまま教室の自分の席に着席したってわけ。
意味が分からない?
そうね、私もよく分からないわ。
バグに意味を求めてはいけない。
そして私の心中は憂鬱だった。
だって、このゲームには他にもたくさんのバグがあるからだ。
これからの学校生活どうなっちゃうのー(ガチ泣き)
◆
「よし、みんな揃ったなな、じゃあホームルームを始める」
私が勢いよく着席すると同時に、担任の号令でホームルームが始まる。
私のダイナミックな着席に誰も驚かない。
それもそのはず、この世界ではこんな事は日常茶飯事。
せいぜい『今日は災難だったねw』と友達に笑われるくらい。
なので、何事も無いようにHRは進行する。
「連絡事項の前に、転校生の紹介だ」
転校生の紹介!
このゲームのジャンルは乙女ゲー。
なので、『パンを咥えた少女が少年とぶつかった』ならば、『ぶつかった少年が転校してくる』のは自明!
だが残念ながら、ここはバグゲーの世界。
転校生はやってこない。
というのも『ぶつかりバグ』のとき、当たり判定の処理をミスって、私と同じように飛んでいったの。
世界のかなたに……
なので彼は学校に来ることは出来ないわ。
ないんだけど、転校イベント自体は発生するのよ……
代役を立てて……
そこまでやるなら本人をワープさせろよ思うけど、そうはならないのはこのゲーム。
しかも代役の人選がとんでもないの。
『ぶつかりバグ』が発端のこのイベントは頭が痛くなる展開になる。
だから正直もう帰りたいんだけど、椅子に根が生えたように動けない。
これがゲームの強制力?
バグゲーのくせに、そこだけは律義なことしやがって!
「入ってくれ」
私が逃げたがっていることも知らず、先生は転校生(?)を呼ぶ。
そこに入って来たのは――
「フハーハハハ、我は魔王。 下等な生物どもよ、我にひれ伏せ」
魔王であった。
意味が分からない?
大丈夫、このバグに遭遇したプレイヤー全員が首を傾げたから。
あまりにも突拍子もない展開に、『隠しルートでは?』と疑った人もいて、ゲームを解析したらしいのんだけど、純粋なバグと判明。
どうバグったら、こうなるんだろうね?
本来のイベントでは、主人公の私は『朝は気づかなかったけど、よく見ればイケメン』の彼にトゥンクするはずだったのだけど……
「ククク、ハーハッハ」
私を待っていたのは、百年の恋すら冷める展開だった。
転校生は、私のストライクゾーンのど真ん中だっただけに残念で仕方がない。
バグさえ起こらなければ、ロマンスが始まったのに……
バグさえ起こらなければ!
あとなんか、風に乗ってバラの香りもするね。
転校生が登場したときのバラのエフェクト、こういう意味だったのかと感心する。
なんで窓を閉めきった室内に風が吹くかは、考えても意味がない。
だってバグゲーだから。
「じゃあ、自己紹介を」
「思いあがるな、人間ども。 貴様らに名乗る名は無い」
「はい、ありがとう」
そこ流しちゃダメでしょう、先生。
クラスメイトも騒いでいるけど、『厨二病、初めて見た』といったもの。
まあ、突然『魔王だ』と言っても誰も信じんわな。
私が世の中の不条理を嘆いている時、突然魔王が私の顔を凝視する。
「須藤霧子、貴様を殺す!」
親の仇でも見つけたように睨みつける魔王。
「なんだ、須藤。知り合いか?」
「いいえ、初対面です」
前世ではゲームの中で殺し殺される仲でしたが、今世では初対面です。
ちなみにこのセリフ、ゲーム終盤の熱い展開の時の物。
間違っても、何も始まってない今に吐くセリフではない。
「ならちょうどいい。 須藤の隣の席が空いてる。 そこに座れ」
先生、冷静過ぎやしませんか?
彼、私を殺すと言ってるんですよ?
生徒の生命の危機ですよ?
嘘でもいいから、『生徒は俺が守る』って言ってくださいよ。
私が心の中で文句を言っている間も、魔王は私を睨みながら、ゆっくりと指定された席に移動する。
だが不思議なことに、空いているはずのその席はもう座っている人間がいる。
誰かって?
転校生です。
なんで座っているかと言えば、『それは転校生のための席だから』という他にあるまい。
ちなみにワープとかではないです。
最初からここに座っていて、今でもぶつかった転校生は飛んでいるし、なんなら『ぶつかりバグ』が無くてもここにいる。
何が言いたいかと言うと、この世界に転校生は二人いるってわけ。
別に伏線とか設定とかはない。
純粋な(略)
開発チームは。本当にテストプレイしたのだろうか?
という訳で、魔王は指定された席を素通り。
そのまま、教室の扉の前まで移動する。
「貴様の顔、覚えたぞ」
捨て台詞を吐き、教室から去っていく魔王。
頭が痛いイベントも、これで終わり。
だが残念ながらこれは序の口。
他にも頭痛が痛くなるイベントが目白押し。
私の物語は始まったばかりだ……
ふと窓の外を見れば、世界を一周したのか、今も吹っ飛んでいる転校生が見えた
はあ、私も風に乗ってどこかに行きたいな……
辛い現実を前に、私は妄想するしかないのだった
4/30/2024, 11:44:18 AM