燕が頭上を行き過ぎる。
曲線が重なり合いながら初夏の空を切り取っていた。
燕は毎年同じ場所に巣を作るのだ。
もしかしたら、あの離れの軒で孵った雛たちが故郷の空を覚えているのかもしれない。
飛ぶことを覚えた若い鳥たちはやがて海を越えてゆく。
信じてほしい、嫌わないでほしい。
そんなことを願えたのは遥かな過去だ。
自分も……そしておそらくは彼女も。
「……燕の巣を見に行こうかな。」
軒の巣が空になっていたら、女はまた独りだ。
歩み寄る切っ掛けには都合が良い。
そう切り替えてしまうと、すぐにすとんと気が楽になった。土産に何を持っていこうか、などと考え始めた自分に笑みが溢れる。
嗚呼、なんて不細工な恋だろう!
【渡り鳥】
5/29/2025, 10:04:40 AM