また、出られなかった。
仕事を終えて携帯を確認すると1件の不在着信。時間はかれこれ数時間前のものだった。他にメールも受信していた。それを開く手は素早いものだけど気分はあまり良いものではない。だいたいの内容は見なくとも分かっていた。そして想像通りのものだった。
『毎日お疲れ様。寒くなってきたから風邪引かないようにね。今日はもう寝るね。おやすみなさい』
きっと、俺からの連絡を待っていたんだろう。けれどこの時間まで待っても返事がこないから今日は諦めたんだろう。先週もそうだった。その前の週も、その前も。いつも連絡をもらってもリアルタイムで反応することができない。ようやく日付が変わる頃に自由になれても彼女は眠りについてしまっている。そんな、すれ違う日々をかれこれ数ヶ月送っている。それでも彼女はほぼ毎日メールを送ってくる。内容はいつも俺を気にかける言葉ばかり。きっと不満や言いたいことはあるだろうに。マイナス的なことは一切言わない。
今かけても無駄だとは分かっているのに電話をかけた。案の定、コール音はどこまでも鳴り続けた。これ以上粘って起こしてしまいたくないので発信するのをやめる。代わりにメールの作成画面を開いた。だが文字を打つ指が止まってしまう。明日は必ずお前が起きてるうちに電話する。それさえも言えなくて、結局送った内容は電話に出られなかった謝罪とおやすみの一言だった。このメールを、明日の朝見た時彼女は何を思うだろうか。あぁまた声を聞けなかった、と思いながら朝から項垂れるのを想像すると胸が痛む。メールなんかじゃなく直接おやすみもおはようも伝えたいのに、そんな簡単なことさえもできない。
いや、できないと決めつけている時点でおかしい。そのせいで知らないうちに制限をかけてしまっているのだ。不可能なんて決めつけている自分がどこかにいる。それでは何も変わらない。
もう一度メールの画面を開く。
『仕事が終わったら会いに行く』
何時にどこで、なんて考える前に送った。ほぼ勢いだ。だがこれで一先ずは朝起きた彼女の顔が憂鬱になることはない。あとはどうにかして今日の予定を片付けてゆくしかない。タイムリミットはあと約23時間。送った内容を実現させるために今日1日を送るだけ。その笑顔を直接見れたなら、何も言わずに抱き締めたい。
10/20/2023, 8:04:10 AM