このヤローいい加減にしろよ、と思いながらじっと待っている。今までもこうして待たされることはあったが、こちらが痺れを切らすまえにきっと応えてくれた。今回だってそうに決まっているのだ。だから、腕を組み替えるたびにそちらを向きそうになるけれど、ぐっと眉根を寄せて視線を前に固定した。この高さから臨む空は、ずっと万古の昔から同じように澄んでいるのだろう。空色にふさわしい軽やかな風が服の裾と絡んでは離れ、洞窟内に微かな音を生んだ。
こうして立ち続けてどれくらい経っただろうか。
待ち人は、重い鋼鉄の扉を超えた向こうに行ってしまって戻らない。待ち侘びる彼女はいつまでも前を向き続けている。たとえ風が彼女の足元に綿毛を運んでこようとも、たとえ暴雨が革靴をずぶ濡れの黒色に変えようとも、たとえ流れずに残った種子が根づこうとも、鋼鉄の扉が内側から軋むまで、彼女は前を向き続けなければならない。だって一度でもそちらを向いてしまったら、なにげない振り向きなんてもう二度とできないから。
「何気ないふり(2024/03/31)」
3/30/2024, 3:13:38 PM