少し前を歩くきみに、ただついていく。
目的地なんて知らないが、きっとそんなものないんだろう。
「ねえ、」
暑いから帰ろう、なんて声をかけようとした時、
突然立ち止まって、こっちを振り向いた。
それでも麦わら帽子の影で、きみの顔は見えないままだ。
「帰ってもいいよ」
少し赤いぼくの顔が、きみからはよく見えるんだろうな。
きみばっかり、ぼくのことを知っている。
「拗ねた」
笑みを含んだような声のきみに、また少し距離を感じた。
近づきたいのに、こんなことばっかりだ。
「仕方ないなぁ、とくべつね」
いつのまにかうつむいていた顔を上げると、きみの顔がすぐそこにあった。
久しぶりに近くで見たきみの顔は、相変わらずきれいだとぼんやり思った。
「なぁに見惚れてんの」
茶化すように笑って離れたきみの顔も、少し赤い。
心臓がうるさくて、きみをただ見つめることしかできなかった。
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「麦わら帽子」 2024. 8. 12
8/12/2024, 2:21:40 AM