あると

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『世界に一つだけ』

 ____ごめんなさい……

 心の中でいつも謝る。
 深刻な雰囲気じゃなくて、もっとこう、軽い感じで。でも「びっくりマーク」はつかないような、消え入るような感じで、私は謝る。

 例えばドラマを見ているとき。漫画を読んでいるとき。曲を聞いているとき。

 ____あぁ……好き……

 そう思った直後、必ず謝る。
 私が「これ好きだ」って思った瞬間。心……というか癖(へき)に刺さった瞬間。
 半ば条件反射のように、謝る。

 私が好きだと思うのは、流血、吐血、包帯、骨折。義手に義眼に、怪我して苦しげな様子。
 あっさりまとめてしまうなら、「痛々しいもの」。

 もちろんそれだけじゃない。「普通」の好きもたくさん持ってる。
 でも、「普通」じゃないものも好きなんだ。

 だから謝ってしまう。
 今この人は傷ついているのに。このキャラは痛がっているのに。ここのメロディはとても苦しんでいるのに。
 私はそれを好きだと言って、自分だけ満たされてしまう。

 ____好きなものを好きと言っているだけなのに、なぜ私は謝っているんだろう。
 
 ときどき立ち止まって、そう考える。
 好きなものは好きなんだ。仕方ないだろう。そう思えるのに、結局、その「好き」を感じると謝ってしまう。



 好きなものは好きと言っていいんだ。

 個性なんだから。

 同じ人間はいないんだ。

 違いは受け入れるものだよ。

 否定しちゃいけない。

 ____みんながみんな、世界で一つだけの存在なんだから。



 こんなことを言っていたのは、誰だっただろうか。
 お母さん?友達?先生?テレビのタレント?新聞のコラムや……いつか読んだ誰かのエッセイにもあったかもしれない。
 とにかくいろんなところで言われていることだ。

 でも、ごめんなさい。
 
 私はまだ、世界に一つだけの私を、完全に受け入れてあげられないみたい。
 
 私、自身が。

 

9/9/2024, 12:25:55 PM