田中ボルケーノ

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瞬間、心が乱れる

足が震え言葉が出てこない
予定にない客
頭にサイレンが鳴り響き
非常灯が思考を赤く染める

落ち着け
ここで降りるわけにはいかない

心臓の鼓動を感じながら
紅潮した顔を緩める
静かに息を吸い込み
腹に力を込めはっきりとした言葉で
ゆっくり伝えた

お客様、折角お越し頂きましたところ
大変申し訳御座いませんが、
本日、システムトラブルの為、ご案内ができない様です
恐れ入りますが日を改めて頂けませんでしょうか

誠実に、申し訳ないという顔を作り上げる

客が、それなら仕方ないですね、と言って自動ドアから出て行く姿を見届ける

汗が噴き出る
膝の力が抜け椅子へ滑り落ちた

今回は危なかった、
もう勘弁してくれよ、
だが流石、俺
自然だった、よし、良かった、ああ助かったあ


仕事から帰ると、妻に声をかけられる
お帰りなさい、ねえさ、今度の週末、旅行にいきたいな、とか

愛想良く返事をする

いっそ海外とかいっちゃう?
妻はキャアと喜んだ

仕事が残ってると言い
部屋へ入るとすぐにメモをチェックする
もはや日課になっていた

記録
一つでもどこか狂えば
最終最後、破壊される

PCで今日の成果を確認するが
またチャートは下降線で
明日の計画を立て直す

プラスじゃなくていい
ゼロでいい
元に戻ればいいのだから

俺ならきっとやれる

誰にも知られず
失ったものを取り返すまで

原資はまだある

今はダメでも
いつか必ず
ゼロに戻せる

君と二人で
幸せな日々を


           まだ知らない君

1/30/2025, 12:33:59 PM