駒月

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 彼岸花が辺り一面に咲く此処で、彼を待っていた。何年も待った。
 早く、早く、堕ちて来ないかしら。 
 私を殺して、少しは後悔したでしょう?
 私のことが忘れられないでしょう?
 私に会いたいでしょう?

 幾ら待っても来ないから、もう地獄でも何処でも行ってしまおうかと思っていた時……突然彼はやって来た。
 あの頃のままの私を見て、驚いた。

「俺は、アンタを愛していない」

 突然何を言うかと思ったら。傷つくんだけど。

「だが」
「やめて、聞きたくない!」
「聞け!」

 耳を塞いだけど、その手を掴まれた。

「愛してはいないが……焦がれる程に欲しかった」
「え?」
「共に過ごす穏やかな日々と、笑顔が、永遠に欲しいと思った。馬鹿だろう?笑って構わない」

 寡黙な彼が早口でそう言った。私が欲しいと、確かに……

「馬鹿ね。今更そんなこと言ったって、私はあなたのものにはならないのに」

 彼の手が私の頬を包んだ。
 重なった唇から伝わる熱が、未消化だった心と後悔を溶かしていく──

「いかなくちゃ」

 揺れる彼の瞳。ここで離れたら、二度と会えない気がして怖かった。
 でもまだ彼には生きてやるべきことがある……そう思ったから。一緒にいけたらどんなに幸せだったことか。

「いつかまた、会えるわ」

 精一杯の笑顔で、終わらせたいから。
 ねぇ、私のあなた。忘れない。
 だから、別れの言葉は言わないで──



【さよならは言わないで】

12/3/2023, 11:07:31 AM