『星空の下で』
空一面の星空なんて、フィクションの中にしか存在しないと思ってた。
田舎では見れるんでしょなんてことが無礼とも思わずに言うのもいるけど、田舎にだって街灯はある。
そもそもいつの時代で止まってるだろう、ああいうの。
いまはそんなことは関係ないのだけど、そんな実物を見ることがないと思っていたものをいま、心ゆくまで眺めている。
けれどそれは本物ではない。
「これをこうやって、穴を開けてその中に明かりを入れるわけよ」
「わざわざ手作りしなくても通販でもっといいもの買えるのに」
「作ってみたいから作るのに、なんで買うなんて選択肢が出ると思うわけ?」
まあ、それはそうだ。目的は作ること、その結果はついででしかない。
目的と手段が入れ替わっているなんてよく言うけど、この場合は目的イコール手段だからたぶん関係ない。
「開けた穴にセロファン好きなの貼っていいよ」
「カラフルすぎない?」
「不自然なほうがいいじゃん、こういうの」
「じゃあ黒を」
「潰そうとするんじゃない捻くれ者め」
捻くれ者はどっちだよ。
わざわざ和室を暗幕で仕切って作られた不自然な暗闇の中で不自然な明かりの群れを映そうなんて、ひねくれてる以外言葉がない。
「よし、できた。とりあえずやってみますか」
そう言って見えた光景は幻想的とは程遠いチープなものだったけど、それがいまの自分たちにはちょうどいい。
「この中で願い事とかしたら叶うかな」
「偽物の願いなら叶うんじゃない?」
そんなことを偽物の星空もどきの中で話してた。
4/5/2024, 12:44:35 PM