G14(3日に一度更新)

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『嗚呼』『願いが一つ叶うなら』『星』


「マッチいりませんか?
 マッチいりませんか?」

 まだまだ寒い三月のとある夜、星のように街灯が煌めく中で、一人の少女が道端でマッチを売ってました。
 少女はどこにでもいるような普通の女の子。
 家計の足しにとマッチを売り歩く、心優しい女の子でした。

「このマッチが売れれば、switch2を買ってもらえる!
 がんばるぞ!」
 若干本音が漏れておりますが、本当にいい子なのです。
 確かにswitch2が主目的ですが、家計を助けたいのも本心です。
 少女は、自分のため、家族のために必死に声を上げます。

「マッチいりませんか?
 マッチいりませんか?」

 けれどマッチは一本も売れません。
 それどころか見向きもされません。
 なぜでしょうか?

 人々に少女が見えてない?
 いいえ、関わりたくないだけです。

 なにせこの話の舞台は2025年3月の日本。
 世間がswitch2を待ちわびているこのご時世に、なぜかマッチを売っているのです……
 普通ではありません。
 そういう事ですので、道行く人々は関わるまいと早足で去っていきました。

 それに、今どきマッチなんて使う人はいません。
 火を扱う機会自体ありませんし、あったとしてもチャッカマンの方が便利だからです。
 そして最初は張り切っていた少女も、何時間粘ってもマッチが売れないことに、ようやく不審に思いはじめました。
 
「おかしいわ、一つも売れない……
 ……ていうか、よく考えたらマッチなんて売れるわけないわ!
 おのれ母め、どうしてもswitch2を買わないつもりだな!」
 少女は騙されたことに気づき憤ります。
 さすがに気づくのが遅いのですが、黙っておきましょう。
 少女は、冬だというのに体から蒸気が出るくらい怒っていました。

 ですが、すぐに怒らなくなりました。
 憤るには体力が必要、長時間外で売り子をしていた少女は疲れていました。
 彼女はすぐそばにあったベンチに、ゆっくりと座ります。
 その様はゾンビのようでした。

「なんだか疲れたわ。
 switch2も買ってもらえなさそうだし……
 なにもかもどうでもいい」
 
 嗚呼、何という事でしょう。
 醜い大人のにれ弄ばれた彼女は、人生に絶望してしまったのです!!

 今までの時間がすべて意味のない虚無の時間と分かった彼女は、がっくりと肩を落とし、消え入りそうなほど落ち込みます。

 しかし世界は、彼女に落ち込む時間を与える程甘くはありません。
 冬の空気は少女の体を冷やしていきます

「とても寒いわ……
 そうだ、ここにマッチがあるわ。
 これに火を灯して暖を取りましょう」
 彼女はマッチの箱を開けて、中身を取り出します。
 そして、どうせ売れないからと、マッチ棒を5本ほど出してまとめて出しました。
 大盤振る舞いです。

「まるで『マッチ売りの少女』みたいね」
 彼女は思い付きを口にします
 その時でした。
 少女の頭に良い考えが浮かんだのは……

「そうだわ。
 私がマッチ売りの少女なら、このマッチの火で不思議なことが起こるかもしれない。
 やってみましょう」
 少女は持っているマッチの束を握り締め、神様に祈ります

「どうか神様お願いします。
 一つ願いが叶うなら、私にSwitch――いえ、お金を下さい。
 具体的には一億円ほど、火が消えても幻の様に消えないやつを下さい。
 私の懐を温かくしてください!」

 少女は自分の欲望に忠実でした。
 彼女は純粋な欲望を胸に、マッチに火を点けます。

 すると不思議なことが起こりました。
 目の前にお金が現れたのです

「すごい!!
 これでSwitch2が買えるわ。
 それどころかPS5も買える!
 私は大金持ちよ!」
 少女は大喜びです。
 ですが世の中にうまい話はありません。
 少女は札束を見て、落胆の表情を浮かべます。

「なによこれ!
 子供銀行券じゃない!」
 残念なことに、目の前に現れたお金はオモチャのお金だったのです。
 お金の偽造は犯罪となってしまうからです。

「くっ!
 ならもう一度よ!」
 少女は先ほどの言葉に『オモチャじゃないやつ』を付け加えて、もう一度マッチに火を点けます。
 ですが何も起こりません。
 奇跡は一度しか起こりませんでした。

「そんなあ……」
 彼女はがっくりと気を落とします。
 本日二回目のぬか喜び。
「大事なお願い事を、オモチャに使ってしまうなんて……」
 そう言いながら、彼女はベンチの背にうな垂れます。
 しかし、びゅうーーと強い風が吹き抜け、少女は寒さで大きく身震いをします

「それにしても寒いわ。
 何とかして暖まらないと……
 マッチを付けて――ん?」

 少女の目に留まったのは、オモチャの札束の山。
 少女の頭に妙案が浮かびます。

 数分後、少女はたき火に当たり暖を取っていました
 札束を燃やして起こしたたき火でした。
 マッチの火よりも暖かく、少女はもう震えることはありません。
 しかし少女は、浮かない顔をしていました。

「確かに暖かいけども。
 懐は暖まったけども」

 彼女の願いは、つまるところ『Switch2で遊びたい』です。
 確かに寒いとは思いましたが、たき火にあたりたいまでは思ってませんでした。
 意外と融通利かないなあと、少女は不満を覚えます。

「まあ、いいや。
 切り替えよう」

 少女は頭を振って、考えを切り替えます。
 不満に思っても、もう既に過ぎたこと。
 どれだけ考えても不毛なのです。

 ならば考えるべきは未来のこと。
 Switch2を手に入れるにはどうしたらいいか。
 そして母の扱いについてです。

「私の純粋な思いを踏みにじるなんて!
 母め、絶対に思い知らせてやる!」

 少女はたき火にあたりながら、母への復讐計画を練るのでした

3/15/2025, 8:24:20 AM