NoName

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鐘の音が鳴る。
その下には、新しい誕生を喜ぶかのように。
人組の夫婦が、まだ生まれて間もない赤子を抱いている。
我が子に明るい未来を望む為ここにいる。
優しい顔で寄り添い合い、赤子はすやすやと寝息を立てている。
鐘の音がなる。
祝福するように。
その下には、愛を誓った二人の人がいる。
一生を添い遂げるためにここにいる。
笑顔が溢れ、これ以上の幸せはないのだと告げているようだ。
鐘の音が鳴る。
涙を流すかのように。
その下には涙くれ、明日の希望を無くした人がいる。
亡くなった人を偲ぶためここにいる。
いつ頃からいるのか。瞼を腫らしながらも、それでも溢れる涙は枯れない。
鐘の音がなる。
まるで、別れを惜しむかのように。
その下は、黒で染まっている。
多くの人が集まり、去っていった一人にお別れを告げる為ここにいる。
涙を流すもの、お別れを惜しむもの。また涙の流し方さえ忘れてしまったものまでいる。

鐘の音は、私たちを見守っている。私たちが生まれてからこれまで。そして、いつかくるお別れの時までを。
優しく、まるで子を思う母のように、見守ってくれている。

8/5/2023, 10:25:05 AM