まっさらなカーテンが揺れて形のない冷涼が吹き込んだ。
あまりにも眩い日差しを目を眇めることもせず白魚のように白い肌を寝具に溶け込ませ女は瑠璃色の双眸を静かに光らせた。
まるでスクリーンの向こうにいるようだと思うほどに女は不思議な存在感があった。
少女のような名残を滲ませつつ大人のような目をしている。
きっとスポットライトの下で妖艶に笑う彼女の魅力にはどんなに美しい宝石でもくすんでしまうに違いない。
こんな"病室"に押し込められるような人間にはどうしても見えなかった。
女には毎日花を持って見舞いに来る恋人がいるらしかった。
いつも堂々としている母も彼女の恋人が来ると遠慮しているのだろう。そのときばかりはカーテンを締め切りいつにもまして黙りだす。
仕切りからは花を咲かせる男と女の声がして、僅かな隙間からは女の穏やかな微笑みが覗く。
束の間の二人の逢瀬は数十分にも満たない。男は半日身を置くこともあるがそれも頻繁ではない。
男が訪れない病室に押し込められて生活する女が子供にはただ寂しくもあり満足しているようにも思えた。
あるとき、二人切りの病室。顔をしかめる子供に女は困ったように笑って言った。
「愛してるから…」
まるで理解してもらえるとは端から期待していないのだろう口振りに更に子供は口を歪めた。
「あんたは勝手だ。」
数刻まで結露の見えた埋め込み窓のガラスに女によく似た幼い顔が歪んで映り込む。女はふと花瓶に生けられた二輪のひまわりが萎れているのをかわいそうだと呟いたが彼女の両手は固く組み合わされていた。
ふと土砂降りのモノだけではないざわめきに響いた女の独り言は打ち落とされ、その子供だけがそれを汲み取り花瓶の花を一輪彼女に握らせる。
美しい花は枯れることすらできずその身を散らした。
──────
「分かった」
何気ないふりをしていないと気が狂いそうだった。後ろの気配にこちらの反応を伺っているということは分かっていたがわざわざ振り返ってやる気も起きなかった。
それだけ自分は彼の言葉に傷ついた。
その事実がまたショックだった。
これまで誰かと深い関係になりたいと思ったことすらなかった。
というか、誰かに依存することに拒否感が昔からあった。だから誰にも踏み込まれたくなかったし踏み込ませないようにしてきた。
それを飛び越えてきたのはお前のくせに、どうしてそんなことを言うのか。
苛立たしくて仕方がない。
それは自分に対してもだ。
「怒ってるよな」
「どうして?」
努めて冷静に返したつもりの声が思いのほか強く響いてしまって、喉が詰まる。
それでもこういうときだけ年上のような態度でこちらを宥める男にまたもやもやが詰まる。
放っておいてほしい。そう思うのにこういうときほどこの男はそっとしてはくれない。
子供のような癇癪の裏腹では喜んでいる自分がいる。
それがまた辛い。
けどきっとまた自分は彼を許してしまうのだろう。
「ごめんな」
深く息を吸ったとき、そんなことを言われたものだからひどく驚いて怒りも忘れて振り向いた。
男は悲しげに笑っていた。
それはかつて見た叔母の笑みとよく似ていた。
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お題【何気ないふり】
3/30/2026, 10:56:46 AM