蜂蜜林檎檸檬蜜柑

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【言葉にできない】

薄黄色のカーテンが風に靡く、2年4組の教室。
私と親友は17回目の夏を迎えていた。
教室にぽつん、と一人でいる私。様子を見るにもう放課後。私は眠りこけてしまっていま様だ。
グラウンドでは野球部の掛け声が聞こえる。
重い頭をゆっくりと上げ、前髪を慣れた手つきで整ええ、時計を見れば時刻はもう16時半過ぎ。誰か私を起こしてくれても良いだろうに。

帰るのが面倒臭い。と思っていた時、後ろに気配を感じた。誰だろう、と後ろを振り返ってみると、学校の制服で、背中には大きく美しい純白の羽根の生えた親友だった。普通は可笑しいと思う格好だが、私の目には何故か馴染んだ。

親友は私の方へ来る事はなく、私に向かってただ手招きをしていた。
何だろう、と疑問を浮かべながらも親友の方へと歩み寄れば、私が親友の隣へ行く前に親友は歩き出した。恐らく、親友は私と距離を取るようにしている様だ。

お互い、一定の距離を保ちながら早歩きで歩いていると、いつの間にか屋上に居て、空にはこの世界を分けるようにして飛行機雲が線を引いていた。

『天気、良いね。』

親友は私の言葉が聞こえていないのだろうか?全く答える気配が無い。風邪でも引いているのだろうか。

悲しいな、と思い少し俯いて入れば、親友が此方へと歩み寄って来た。私は少しの喜びを噛み締めては親友と目を合わせる。そして親友が私の手を取れば一言、

『横で見ててね。』

私は何を見せられるのだろう。そう思いながらも親友が屋上フェンスの方へ行くので、着いて行った。

『ねぇ、横で見ててってどういう事?』

『言葉の通り。見てれば良いから。』

親友は純白…否、半透明の翼をぱたぱたとさせ、そう言った。あの翼で何かをするのだろうか。何か悪い予感がする。

次の瞬間、親友はフェンスを登り始めた。私は慌てて止めようとした。けれど何故か声が出ない、体が動かない。代わりに脂汗がとめどなく出てきている。

『ねぇ、アンタはこっちに来ないでね。』

現実では数秒間だろうが、自分の中では何分もの時間、金縛りの様な状況下、藻掻いていたら、急に体がふわっ、と軽くなった。話せるし、体も動かせる。だが脂汗は止まらない。

『みなみ!!!』

悪い予感が当たってしまった。もっと早くみなみに近付けば良かった。止めればよかった。

私の親友の名を呼ぶ声は儚く空に響いだけ。親友の事は止められなかった。親友がフェンスを登って、屋上から飛び降りたのだ。屋上には数枚の羽のみ、残されていた。

悲しい気持ちになっていたのも束の間、自分の真上からは物凄い量の水が降ってきた。水がばっしゃん、と音を立てて私の服や体を濡らせば、背筋が凍った。

水が降ってきたと同時に閉じてしまっていた目をゆっくり開ければ、辺りから水が無くなっていた。だが、自分だけはずぶ濡れだった。

生暖かい風が吹く。

すると私の体が目の前に落ちていた羽と一緒に持ち上がり、フェンスを超えて行く。私はまた藻掻くが、足は地につかない。恐る恐る下を見ると、案の定みなみは倒れていた。けれど血は出ていない様だった。

みなみを視界に入れた瞬間、風が止み、私も下へと落ちて行った。




目が覚めるとそこは自分の布団の上だった。

目を徐に触ってみれば、生暖かい水。これは涙だろう。
体がふわっ、と落ちた感覚で目が覚めた様だ。
時刻は朝の8時。そして土曜日だ。

私は夢の内容を察しては、静かに制服へと着替えた。
ふらつく足で階段を降り、リビングへと行けばスーツ姿の両親が居た。

『おはよう。今日は辛いかもだけど、頑張ってね。』

『お父さん、車、出すから先行くな。』

『うん。ありがとう、』

辛い、お疲れ様、今までありがとう。
言葉にできない。心の中でぐるぐると感情が渦巻いていて、色々な思い出が頭の中を駆け巡る。


      今日は親友のお葬式。

4/12/2023, 8:11:44 AM