祖父が亡くなった、と連絡が来たのは夜中の3時をまわった頃だった。枕元に置かれたスマホから軽快な音楽が鳴り、画面の眩しさに目を顰めながら出た私の耳に飛び込んできた内容に、それまで停止していた脳が一気に動き出した。ベッドから降りながら電話の相手に『始発で帰る』と伝え通話を終了し、ほとんど使っていないスーツケースに目につくものを詰め込んだ。
あれから一睡もせずに最寄りのバス停から駅、そして駅から始発の電車に乗るまで私は何も考えられなかった。正確に言えば『考えて手が止まる』のを避けるため、ただ機械のように準備と行動をしていた。空いている席を見つけて腰を落ち着けた瞬間、どっと疲れに身が沈んだ気がした。動き出した電車の振動に、ふわふわと睡魔が寄ってきたが、これから乗り継ぎがあるため何とか意識を繋いでおくため、リュックからイヤホンを取り出し音楽プレーヤーを起動させた。レポート作成、散歩、読書、、、と自分で作ったプレイリストたちの中に見覚えのないリスト名を見つけた。いつか酔った勢いで作ったのか、はたまたリスト名を変えたきり忘れていたのか。再び襲ってきた眠気を頭を振って、【私の思い出】と書かれたリストを再生させた。
最初の曲は子どもの頃に好きだったアニメの歌だった。しゃもじやお玉をマイク代わりにして両親や祖父母の前でよく歌っていたのを思い出す。音を外しても、歌詞を間違えても誰もそれを指摘せず、可愛がってくれていた。
次の曲は中学か高校生か、とにかく友達との話題に入れるようにと聴いていたアイドルグループの曲たち。当時興味もないドラマや音楽番組に、話題のアイドルが出るとなると慣れない夜更かしをしたものだった。次の日には観たドラマや歌の感想を言い合い、友達との関係を壊さんと努力した。それでもアニメや漫画は好きだったので、家族には学校では話さない自分の好きなものをひたすら話した。
流れていた曲が終わり、次は最近の曲かなと思っていたところで音が消えた。というより、何も再生されない。さっきの曲で終わりだったのか、と思って再び音楽プレーヤーのリストを確認しようと画面を見た瞬間、曲が流れ始めた。それは私が大学に進学するために地元を離れる、と祖父に伝えに行った時に流れていた曲だった。題名は知らない、でも母に聞くとそれは祖父が唯一好きでよく1人で流していた、とのことだった曲。題名を知らない私が、この曲をリストに入れることはできるはずがない。そしてリスト内の曲を見返してみて私は気づいた。これは『私』の思い出の曲ではなく、祖父の『私の思い出』である。
それに気づいた時、私は言葉にできない想いに息が詰まった気がした。そして息苦しさに慌てて深く息を吸った。鼻先がツンとして、熱い息が漏れる。祖父の顔を見るまでに涙を少し流しておこう。彼の思い出は、笑顔の私のまま終わって欲しいから。
4/12/2023, 9:59:04 AM