鋭い眼差し
ワイシャツのボタンを上三個外してだらけた姿勢で、探偵は弛緩した目つきでこちらを見た。こいつ一応は有能な探偵で「Trouble is my Business」を標榜してるはずで、さらにはこの世の外までも仕事場にしてる心霊探偵だと聞いた。本当だろうか。私のこの問題を解決してくれるならいくら怠惰に見えても構わない。
「探偵さん? とりあえず私のまわりにある窓をのぞいて? それで問題があるとわからないなら契約はしないわ」
探偵は眉をひそめてあたりを見渡した。
「ひでえな。誰からの呪いか見当はつくのか?」
「つかないからあなたに相談してるのよ」
探偵はふっと笑って私を見つめた。私の魂胆を見透かすような。私も笑い返した。私は現時点では被害者なのだもの。私は今のところ何もしていない。ただ鷲司家の下女をひとり解雇しただけよ。あの下女は黒い鰓とつながっていたからうちに置いておくわけにはいかなかった。
この自称心霊探偵はどこまで知っているのかわからないけど私の盾にはなれるのかしら。それともそういうのは他に依頼すべきかしら。私もよくわからない。
「黒い鰓って聞いたことがある?」
微笑みを崩さぬ努力を続けたまま尋ねると、探偵は一瞬ぴくりとしたが、何食わぬ顔で、
「黒い鰓。それは厄介な案件だなあ。高くつくぜ」
と、へらへら笑った。軽すぎて腹が立つような剽軽な顔に、鋭い眼差しがとってつけたように張り付いていた。
10/15/2024, 10:25:06 AM