「私も、貴方も」
曇った窓ガラスを見つめながら、彼はふと思いついたように口を開いた。
「多分一人である程度のことは出来てしまうんですよね」
外は雪。積もるかも知れないと予報で言っていた。
けれど暖房の効いた部屋との気温差でそんな外の様子はほとんど見えない。
白だか灰色だか分からない色で閉ざされた室内は、暖かい筈なのに何故か妙に居心地が悪かった。
「まぁ、そうだね。否定はしないよ」
どこか投げやりな調子で私は答えて、一人がけのソファからゆっくり立ち上がる。
彼は何も見えない窓ガラスを何故か睨みつけるように見つめていた。
「人は一人では生きていけない、なんて言うけれどそれは嘘だよ。どうとでもなる」
私も彼も、確かに一人である程度のことは出来てしまう。ハードルを下げれば苦手だと思う事もやれない事は無いだろう。別段、私と彼に限った事ではない。
そう言うと、彼は私を見上げて厳しかった表情を突然ふわりとやわらげた。
「そういう、ところですよ」
そう言って、隣に並んだ私にどかりと背を凭れかけてくる。なんと答えたらいいのか分からず、私は彼を見下ろして問うた。
「みんなからもよく〝そういうところ〟と言われるんだけどね。何が〝そういうところ〟なのかよく分からないんだよ」
言いながら手を伸ばし、曇ったガラスの上で掌を数回往復させる。氷のように冷たいガラスの水滴で手がみるみる濡れていくが、構いはしなかった。
もう既にうっすらと雪は積もり始めている。
「私も貴方も、寂しいとか苦しいとか、そういう事を口に出せない性分だから困りましたね。という話です」
彼は私を見上げながら微かに眉を寄せて微笑む。
どこかで見たような表情だな、と何故か思った。
「やっぱりよく分からないな」
「いいんですよ。分からないままで」
彼は答えて、まだ曇ったままのガラスに指で何かを書き始める。
「せめてこんな寒い冬は、一緒にいましょう」
彼が相合傘に自分の名前を書き入れた頃には、隣に書かれた私の名前はもう滲み始めていた。
END
「冬は一緒に」
12/18/2024, 3:44:55 PM