フィロ

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夜の帳が落ち始めると、彼はやって来る
チラホラと灯り始めた街の明かりを背に受けながら、彼はやって来る 
指先から足元から私の体に絡みつくように彼は私の体を包み込む

待ちに待った彼との逢瀬の時間は毎回こうして始まるのだ


春には少し肌寒い空気に身震いしながら夜の桜を楽しみ、
夏には夜の海へ小さな小舟で繰り出してみたりする
秋にはくっきりと空に浮かんだ月を並んで見上げ、月明かりが眩しいほど美しい彼が愛おしい
冬には着ぶくれして大きくなった私を更に大きな体で彼が覆いかぶさって来る

そのどんな時でも私達は離れる事はなく、迫り来る別れの時までの濃密な時を紡ぎ合うのだ

こんな私達を引き裂けるものは存在しない
例えお互いが別れを決意したとしてももはや、それは不可能なほど私達の絆は深く強い


唯一、私達を分かつもの…
それは夜明け、だ

私達の逢瀬は日が落ちてから夜が明けるまでの間の、日の目を浴びることのない睦みなのだ


空が白み始めている
夜が明ける

どれだけすがって泣いても、あれほどまでに私に纏わりつくように私と重なり合っていた彼は、淡々と、未練ひとつ残さず去っていく

「また、明日も会える?」

そう呟く私に彼は言う

「天気次第だね」


幾度交わした言葉だろう
私はこの夜明け前の時間が恨めしい


そんな彼を世の中では、『影』と呼ぶらしい




『夜明け前』

9/14/2024, 7:39:07 AM