“星を追いかけて”
柔らかそうな色素の薄い髪に、陽の光が反射する。チカチカと眩い。寝起きの身体には少し厳しい。輝度の問題だけでなく、会話のテンポ的にも。
「だ、だからねっ」
「おー」
「楽しいねって。嬉しくて。一緒に行きたいって、思ったんだ」
「……どういう意味?」
普段から考えなしに会話をできるような相手では到底ないのに、回らない頭では噛み合わなさに拍車がかかる。今は確か、彼が友人と遊びに行った話をしていたはずだ。それが、楽しくて、嬉しかった。だから、一緒に行きたいと思った──。
相変わらず、文の構成要素がどこかしら抜けているやつだ。
心の底から首を傾げれば、アワアワと、元々少ししか持ち合わせていない落ち着きを無くす。恐らく、脳内ではもう少し上手く話せているのだろう。彼が苦手なのは国語ではなく、言葉の出力なのだ。
いつもならもう少し冷静に問いかけられるのに、どうにもこの時間は調子が出ない。今朝はここで会話終了かな、と遠くを見つめれば、遮るように視線を合わせられて瞬きした。
「よ、かったら。一緒行こ!」
えいや、と声が聞こえる勢いだった。珍しいほどに意気込んで、手なんか掴んじゃったりして。掴まれているのは自分の手なのに、どこか他人事に感じる。冷たい手。緊張、してるんだな。
「あ? え……」
予想外の展開に言葉を失って処理落ちすること数分。あまりにも長すぎる沈黙に恐れをなしたのか、涙目でピューンと逃げていく。コラ、待て。せっかく、格好良かったのに。
『一緒に行きたい』『一緒行こ!』キラキラしているその瞳は、まごうことなくこちらを射抜いていた。ただの友人相手にしては、ずいぶんと、熱量の高い。
「……待てってば!」
手のかかる星を追いかけて。一目散に駆け出した。
7/21/2025, 3:41:20 PM