題:貴方が泣き止むのを待っているわ
雨の日はいつも、あの約束を思い出す。
幼い頃、ママと交わしたあの約束。優しく、儚げなあの約束。
そう、あの時交わした約束はーー。
ロゼッタは雨の打ち付ける窓の外を見ながら、幼い頃に想いを馳せていた。
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背が高くて、綺麗な金髪で、美しい浅葱色のドレスを着た、一国のお姫様だったママが大好きだった。自慢のおヒゲをもつパパの事も大好きだった。
ある日、お城を出ていたママを見つけて、何処に行くのだろうと思って後ろ姿のママに声をかけた。
「ママ、どこへ行くの?」
するとママは、いつもの優しい綺麗な声でこう答えた。
「何処にも行かないわ。昼には太陽となって、夜には月となって、いつも貴方をみているわ」
いつもの優しい綺麗な声のはずなのに、それが還って私を悲しくさせた。
「太陽も月もない、雨の日の夜は?」
私は涙で顔を濡らしてママに抱きついた。ママはどう答えようか迷っているようで、しばらく考え込んでいた。
やがて顔をあげると、微笑みながら私の問いに答えた。
「お星様になって、雲の上で貴方が泣き止むのを待っているわ」
ーー嬉しかった。雨の日の夜も、雪の日の夜も、いつも私をみてくれている。そう思うと、涙は止まった。
そして私は、ママの華奢な小指に自分の小指を絡めた。
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クスリと、ロゼッタは笑った。
窓の外の雨音が、ママの優しい声に聞こえた。
5/26/2025, 7:50:47 AM