『寒さが身に染みて』
「……寒い……寒い、寒いぃぃ~!」
夜、ちょっとコンビニに買い物に行こうと外へ出たら、風が強過ぎて、あまりの寒さに凍えてしまった。
そしたら、隣の彼が笑ってる。
「そんなに言っても、寒さは無くならないよ。」
「だって~~~」
縮こまって震えてる私に笑い掛けて、彼はゆるゆると自分のマフラーを解いた。
「だからマフラーあった方がいいって言ったのに。」
そう言って、あったかい体温の残るマフラーを、私の首に巻いてくれた。
「わー、あったかい!」
「全然違うだろ?」
「うん。」
一人で温まって、チラリと彼を見る。
「寒くない?」
「いいよ、俺は。」
笑って頭をポンポンする。
「半分こする?」
「え?」
マフラーを半分、彼の首に掛けた。
「学生じゃあるまいし。」
そう言って吹き出して笑う。
「いいじゃん、こういうの。誰も見てないよ。」
私が言うと、彼はじっと私の顔を見て。
「じゃあもっと近付いて。」
そう言って私の肩を抱いた。
フフッと笑って、彼に寄り添った。
「カップルっぽいね。」
「カップルっぽいね。」
二人でそう言い合って、笑顔を交わした。
子供みたいなことをするのも、たまにはいいな、なんて思って、それを受け入れてくれる人であることも、またいい。
顔が赤くなったのは、きっと寒いせい。
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『寒さが身に染みて ~彼 side ver.~』
『このクーポン今日までなの思い出したから、どうしてもコンビニに行きたい!』
という彼女の希望により、俺もついていくことにした。
こんな寒い日は、寒がりだった元彼女のことを思い出す。いつもマフラーぐるぐるで、腹巻きもしててカイロも身に付けて、冷え症で足の指なんて変色してて可哀想だったなぁ、と。だからいつも俺は、いつでも温めてやれるように、あったかグッズを携帯していた。
それが今の彼女ときたら、『コンビニ近いから上着なくても平気かな?』なんて、たいそう気丈夫なことを言うもんだから、コートだけは着なさいと、着せて家を出た。
「……寒いぃぃ~!」
案の定。
私は冬は強いから、なんて言ってても、やっぱり寒いもんは寒いだろ。
風邪でも引かれちゃ困ると思ってマフラーを差し出す。
「半分こする?」
思えば、半分も返されたことはなかったな。元彼女は、いつもあったかいもの独り占めだったから。
くっついて歩くのが、なんだかこそばゆい。けれど、彼女と一緒に温かくなれる居心地の良さに、俺はひとときの、他の女とは違う安らぎを感じていた。
俺は寒くても全然構わなかったのだけど、一緒に寒さも温かさも感じられることに喜びを覚えていた。
1/11/2023, 10:47:09 AM