なこさか

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 身支度(各キャラクター)



 ヴァシリー、ミル


 「ミル」

 「ん?」

 「お前、髪は伸ばさないのか?」

 ヴァシリーは頸辺りで切り揃えられたミルの赤い髪を櫛で梳きながら問いかける。

 「伸ばしても邪魔になるから。その気は無いよ」

 「そうか。……終わったぞ」

 「はーい」

 ヴァシリーは櫛を鏡台前に座っていたミルに渡すと、今度は自身が鏡台前に行き、ミルが後ろへ回る。
 鏡の中に映る自分とミルをぼんやりと見つめながら、ヴァシリーはふとこぼした。

 「……娘なのだから、伸ばせば良いものを」

 「何か言った?ヴァシリー」

 「何も」


 二人は隙間時間にこうして髪の梳かし合いをする。
 鏡を見ながら、ヴァシリーはミルの長髪姿を見たいと密かに思っている。


 司書


 「今日も神の祝福が皆にありますように」

 身支度を整え、姿見の前に立ちおかしなところが無いかチェックする。
 何事も無ければ、胸元のロザリオを握りしめて静かに祈りを捧げる。

 (今日も誰かの助けになれるよう、頑張るとしましょう)



 人一倍献身的な司書さんは毎日、姿見の前に立って神様に祈りを捧げる。誰かを想い、働くその姿に騎士たちは司書さんのことを「先生」と呼び慕っている。


 スピカ、ルカ


 早朝、訓練場で鉢合わせた二人は手合わせをした後、顔を洗いに洗い場へ向かう。
 そこに備え付けられた鏡を見て、スピカは自身の右頰に触れた。僅かに切れていたからである。

 「……切れてる」

 「何処か怪我でもしていたか?」

 「あ、ううん。大丈夫。ほんの少しだけだから」

 やんわりと断るスピカに構わず、ルカはその顔を覗き込んだ。そして、スピカの右頬の傷を確認した後、持っていたタオルでそっと押さえる。

 「無いよりマシだろ?少し抑えておくんだ」

 「ありがとう……?」

 「何で疑問系なんだ?」

 「その……ここまでしなくても」

 戸惑うスピカにルカは明るい笑顔を浮かべた。

 「念の為ってやつだ。とにかく、戻ったら手当しておけよ。また後でな」

 「うん」

 ルカは立ち去った後、スピカは再度鏡を見る。そこには戸惑いと嬉しさの入り混じった顔をする自分が映っていた。


 スピカはミルと同い年だが、感情表現がやや苦手。世間的に疎いところもあり、ルカはそんなスピカを日頃から気にかけている。
 それぞれの日常のちょっとした小話でした。

11/4/2023, 11:25:11 AM