香草

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「失われた響き」

クリスマスが輝きを失ったのはいつからか。ありがとうと言われても心が潤わなくなったのはいつからか。
芸能人の名前が出てこなくなったり、同じ話を何度もしてしまったり、若い頃疎ましいと思っていた年寄りに近づいているようで少し悲しい。
だけど仕方ないことだ。
若い頃に戻りたいとは思うけれど、忘れることはまた新しい感動を再体験できることと同義だ。
悲しく思う必要はない。
ある日のことだ。旦那を風呂へ、子供をベッドに追い立てて今日一日の最後の家事をしていた時だった。
ぼんやりと明日のスケジュールを考えて、冷蔵庫の中身を確認しなきゃなあと思っていると、ふと名前が呼ばれた。旦那が風呂場からタオルを取るように私を呼んだのだ。
一瞬誰のことか分からなかった。いつもは子供と一緒になって「ママ」と呼んでいたから。
けれどその瞬間、私はぎこちなく初めて名前を呼ばれた時のクリスマスデートにタイムスリップしたのだ。
体中の血液がドクリと音を立てた。
「はいはい!」
いつも通り大きな声で返事をする。しかしいつもより少しだけ赤と緑が鮮やかな世界はその日寝るまで続いた。
私の名前が失っていた輝きを取り戻した瞬間であり、ときめきを再体験できた瞬間だった。

11/29/2025, 11:31:11 AM