たーくん。

Open App

授業から解放され、一気に騒がしくなる昼休憩の教室。
皆は食堂へ行ったり、席を移動して誰かと一緒に弁当を食べている。
私は自分の席で弁当を広げ、周りで会話している皆の声をBGMにしながら、一人で黙々と食べていく。
「あー、あー、マイクテステス」
教室のスピーカーから、男子の声が流れた。
皆は会話を止め、スピーカーに注目している。
「声入ってるな……よし。えー、今から俺は好きな人へラブソングを送ります!その好きな人というのは……2年C組の池田綾子!君だ!」
口に入れていたおかずを噴き出しそうになった。
池田綾子って、私のことじゃん。
てか、どこのクラスの男子よ。名を名乗りなさいよ。
皆から視線を浴び、私は注目の的になっている。
「綾子、俺のラブソングを聞いてくれ。タイトルは『綾子アイ・ラブ』」
タイトルが直球過ぎて、思わず口が開いてしまう。
名前を連呼されるし、タイトルにも名前が入ってるし、すごい恥ずかしいんだけど?
そんなことはお構い無しに、スピーカーからギターの音が流れ始める。
「綾子~(綾子~)好きだ~(好きだ~)。愛してる~(愛してる~)。俺と~(俺と~)付き合ってくれ~(くれ~)」
自分でセルフエコーして恥ずかしくないのだろうか?
聞いているだけで、生気を吸いとられている気分になる。
私は我慢出来なくなり、席を立ち、教室を出た。
「綾子~(綾子~)好き好き好きだ~(好き好き好きだ~)俺と~(俺と~)幸せな未来を~(未来を~)作ろう~~~!」
「お断りよ!この恥知らず野郎!」
「いてぇ!」
私は放送室へ行き、背後から男子の頭にげんこつしてやった。
男子の痛々しい声が、学校中に響き渡る。
次の日から、私は“げんこつ綾子“と呼ばれるようになり、学校で有名人になった。

5/6/2025, 11:13:47 PM