三行

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「今日の授業移動だっけ?」「そうそう移動」
「いやあれ変更になったらしいよ」「え?つまりどっち?教室なの?」
思い思いの言葉を口にする生徒で溢れる教室。
授業と授業の間の休みも、もう残り5分を切りかけている。
そんな中、教卓の前に立つ少女が居た。
「みんな静かにー!報告するから!今日は移動だよ、わたし先生に聞いてきた!」
引き続き、今日は移動だと繰り返している。
だが、静かにするように声をかけたのに少女の声ではあまり響いていないようだ。
仕方ないな。
「ほら皆黙れって。ちゃんと聞きに行ってくれた子がいるんだから、聞こうぜ」
途端、静まり返った空間。
視線が教室のど真ん中、つまり俺の方へと集中しているのを肌で感じる。
なんなんだ。たまには大きな声を出したって構わないだろう。
「……えっと、だから次の授業は移動!理科室だよ!」
……。
少しの沈黙の後、顔を見合せた生徒たちは軽く彼女にお礼を言うと、ガタガタと準備をし始める。
自分もそろそろ移動しなければと腰を上げ、歩き出す。
「あ、あのさ」
と、背後から声をかけられた。少女の声だ。
「ん?何?あ、ありがとうね、わざわざ先生のとこ聞きに行ってくれて。俺らあんま動かねえし助かった」
振り返ってまだ言っていなかった、言いそびれていたお礼を口にする。
「いや、いいの、私こそありがと」
「ああ、いいよあれくらい。理科室行かなきゃ先生がまーたイライラするからな、そろそろ2年だしちゃんとしないと」
「う、うん。そうね」
……?話は終わったのだろうが、まだ俺から視線が逸れない。
「あ、なにか用事あったりした?ないならそろそろ」
遅刻してしまうから向かおう、と続けようとしたが。
「あのっ!今日…その…」
少し俯き、頬を淡く桃色へ染めて、もごもごと話す少女。
おや。まさか。そんな。
流石に動揺してしまう。もしかすると、もしかする……?
「放課後、ちょっといい…?」
する……のか……??
「あっ、ああ、いいよ」

その後どんな顔をして残りの授業を受けたことか。
「便所でも我慢してんのかと思ったぞ」とは友人の言葉。
こちとら思春期だぞ、色々考えてしまうのも仕方ないだろう。言わなかったけど。

待ちに待った放課後。昨日までより長く感じるHRを終え、人通りの少ない棟での階段の踊り場。件の少女と一体一。
「あ、えっとね、話なんだけど」
「うん、何かな」
あくまで平常心につとめる。
差し出された封筒。
まさか。

「あの、あの子と君、仲良いじゃん…?渡して欲しくて」

…………ああ。
「わかった、なんて言って渡せばいいかな」
「あっええと…読んで欲しいってこと伝えてくれたらいいから!じゃ、じゃあよろしくね!」
小走りに去っていく背中をぼんやりと見つめる。

自惚れた己をとても恥じた。あいつに言わなくてよかった。ただの思いすごしだったなんて。




「で、渡したの?」
「そりゃあね。頼まれ事は完遂したさ」
「どうだった?2人はくっついたの!?」
「いや〜どうだろうな、俺の知ってる範囲だと付き合ってはなさそうだったけど」
「え〜そっか〜。でもいいな!なんか甘酸っぱくて!」
「うーん…俺としては恥ずかしい話をさせられたんだけど」
「ふふ、勘違いしてた貴方も可愛いじゃない」
「まあ、君がそう言って笑ってくれるなら、話してよかったかも」
「ええ、また色々と教えて!」


「とりとめのない話」2023/12/18

12/17/2023, 3:05:27 PM