一尾(いっぽ)in 仮住まい

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→短編・良いヤツ

 塾で国語のテストが返ってきた。テストを受け取った李斗は少し鼻を膨らませた。
 山川李斗83点。う〜ん、来年の中学受験までには、もうちょっと力を力をつけなきゃなぁ。
 李斗の前の席の福永智が振り向いた。かなりいい点数だったに違いない。満面の笑顔だ。
「なぁ、どうだった?」
 正直、李斗は智の自信のある態度にショックを覚えた。智は塾に勉強に来ているというよりも、友人を作りに来ているかというくらい不真面目な生徒だ。しかし明るい嫌味のない人柄で、誰からも嫌われることなく、塾の先生たちの受けも良い、不思議な魅力を備えている。
 李斗も智と休み時間にふざけ合いはするが、テスト結果となれば話は別だ。
 李斗は思わずテストを隠した。
 智は李斗の心境などお構い無しに胸を張った。
「俺、星に願って勉強するよ!」
「それ、願ってどうするんだよ。誓うんだろ」
 テストに出ていた問題だ。故郷の惑星から別の惑星に移住した主人公が、自分を奮起させるために用いた表現はどれか? 
a. 星に祈って
b. 星に誓って
c. 星に願って
「それそれ! 覚えんの苦手なんだよなぁ〜」
「祈る願うは他力、誓うは自力って覚えたら?」
 李斗の解説に智は目を丸くして顔を輝かせた。
「ありがと、山川! ホントに良いヤツ! そうやって覚えんだな。もう一生忘れないわ!」
 騒ぎすぎて講師に怒られた智は、自分の出来の良くないテストをひらひらと振って前を向く。「は〜い、テストに誓って勉強しまぁす!」今度の使い方は間違っていない。クラス中が笑った。
 底抜けに素直で前向きな智の背中に「お前のほうが良いヤツだよ」と、李斗は眩しいものをみるように少し目を細めた。

テーマ; 星に願って



2/11/2025, 9:24:37 AM