霜月 朔(創作)

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波音に耳を澄ませて



君が私の元を去って。
季節は何度も巡った。
それでも忘れられない、
君の面影。

二人で海を見たのは、
もう、何年も前の事なのに、
私の心は、
あの日の海の蒼に、
囚われたままなんだ。

波音に耳を澄ませて、
君を思い出す。
君の瞳、君の声、
君の鼓動、君の温もり。

忘れられない君の、
抜け殻になった想い出を、
腕一杯に抱え、
一人、海を眺める。

ふと、小さな波間から、
君の控えめな笑い声が、
聴こえた気がして、
顔を上げ、君を探す。

だけど、見えるのは、
静かに揺れる水平線と、
哀しい程に蒼い海。
遠くから聴こえる、
誰かが燥ぐ楽しげな声。

君が去ったあの日から、
私の心はずっと空っぽ。
ただ、潮風だけが、
私の隣に居るだけ。

波音に耳を澄ませて、
小さな願いを、海に託す。

どうか。もう一度。
君の笑顔が見られますように。
例え、その微笑みが、
私の為…ではなくても。

7/6/2025, 6:33:36 AM