私が働く高齢者のデイサービスに、米軍基地の元調理人という経歴を持つ高齢の男性が利用を開始した。
彼は「グッドモーニング」「サンキュー」「ベリーグッド」と日本人のスタッフに陽気にカタカナ英語でコミュニケーションを取る。
英語に苦手意識のある私もその簡単な英語と彼の陽気な笑顔に「グッドモーニング!」と挨拶を返す。
カタカナ英語の彼に、スタッフのみならず「グッドモーニング」と挨拶する他の利用者さんも現れ始めて、彼は笑顔の素敵な人気者になった。
彼は、奥さんと二人暮らし。所謂老老介護である。
数週間後、彼の妻も彼と同じ曜日にサービスの利用を開始した。
妻は古風な日本人女性らしい淑やかさと可愛らしい笑顔が魅力的な女性で、私たちに「おはようございます」と初日は緊張気味に挨拶をしてくれた。
「おはようございます」とにこやかに挨拶をしながら、カタカナ英語でないことにほんのちょっとだけ肩透かしを感じたけれど、彼女の可愛らしい笑顔がそれを打ち消した。
先に利用を開始してデイサービスに慣れている彼が、施設日程や決まりごとなどを伝えて甲斐甲斐しくお世話している。
妻も彼も耳が遠く、お互いの耳を近づけて一所懸命に会話をしてる。長年の良好な夫婦関係がみてとれて、「仲良いですね」って思わず話しかけてしまうと、「普通ですって」と彼らは照れ笑いを浮かべた。
カタカナ英語の彼と淑女の彼女は私たちの推しカップルで、今日は彼を数人のスタッフで取り囲む。
雑談がなぜか恋愛話に発展し、話の流れであるスタッフが彼に告白の言葉を聞いた。
彼が、後方で女性利用者と談笑している奥さんをそっと振り返る。
イタズラっぽい笑みを浮かべて言った。
「内緒」
楽しい雰囲気を崩さずに、ちょっとだけ推してみた。
「教えてくださいよー」
「内緒」
カタカナ英語で告白してたら素敵なんだけどなと、思いつきを言葉に乗せる。
「アイラブユーとか?」
彼の顔がみるみるうちに赤くなっていく。
「え、ほんとに?」
「内緒!」
彼の少しだけ大きくなった声に後方の奥さんが振り返って、私たちの方を心配そうに見ているのに気がついた。
「内緒ですよね」
「内緒」
彼がホッとしたように笑って、私たちも笑顔になる。
奥さんは安心したようにまた女性利用者との会話に戻っていった。
年月を重ね、高齢になっても深い愛情で結ばれている二人。
それはとても美しく、素敵なこと。
私は交際中の彼の顔を思い浮かべる。
私たちも、この二人のように助け合いながら笑いあっていけると良いな。
仕事が終わったら電話しよう。
あの暖かな声が、聴きたくなったから。
I love
6/12/2025, 12:56:50 PM