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「向かい合わせ」

あれからみんなに架空の彼氏は小学校の同級生だったこと、本当は好きだったこと、本人にばれてしまったこと、彼には彼女がいることなどを打ち明けた。だから、「このゲームは抜けるね」と言ったら、「もう充分楽しんだから終わり」と沙織が言って、「賛成」と京夏が言って、「また夏休み明けたら会おうね」と約束してみんなと別れた。

ファミレスを出て一人で歩く。妄想でも恋バナ楽しかったな。現実には絶対に起こらないだろうな。もう恋なんて諦めて来年に備えて勉強しよう。

夕日がまぶしいな。もうすぐ家に着くけど何となくこのまま帰りたくない。妄想彼氏だったけど好きな気持ちは本当。私のこと気持ち悪いと思っただろうな。あたため続けてきた初恋も今日で終わり。

子どもの頃の遊んだ公園が見えてきた。ちょうどいい。ここで少し感傷にひたるのは許してほしい。小さい子たちはもう帰ったんだ。広場でサッカーをする中学生らしい集団の他には誰もいない。

ブランコ、シーソー、すべり台、ジャングルジム。今なら遊び放題。でも子どもの時のようにはいかない。遊具ってこんなに小さかった?自分の大きさに愕然とする。そうよね、昔とは違う。

ブランコに乗ってゆらゆら揺れる。何とか乗れた。

「体重オーバー」

後ろから声がする。慌てて飛び降りて振り向いた。高橋くんだった。

「ごめんなさい。勝手に名前使って」
「別にいいけど」
「迷惑だよね」
「迷惑じゃない。あと、あれ嘘だから」
「あれって?」
「彼女が待ってるっていうのは嘘。ただのクラスメートで文化祭の相談してただけ」
「そうなんだ」
「これ乗ろうぜ」

高橋くんはシーソーにまたがった。

「体重オーバーじゃない?」
「うるせー。早く乗って」
「うん」

「うわっ」
私が乗ると高橋くんが跳ね上がる。
「結構重いな」
「失礼ね。そんなに太ってない」

それから無言でキーコ、バッタン、キーコ、バッタンをくり返す。

空が茜色から深い青に変わるころポツンと高橋くんが言った。

「中学から私立に行くなんて聞いてなかった」

シーソーの上で向かい合わせになった高橋くんの顔が暗くてはっきり見えない。

8/25/2024, 2:29:30 PM