sippo

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自転車、といわれて真っ先に思い出すのは高校生の頃。
隣の市の学校に通っていた私は自転車通学をしていた。
片道4キロ、時間にして20分ほど。

8時10分に家を出て、15分に大通りに入る。
20分頃には市の境を通過して、25分に坂道を超えたら30分に校門を通ることができる。
…お察しの通り、けっこうギリギリ登校である。
自転車を止めて、靴を履き替えて、ダッシュで階段を上がり、前髪が汗でぺたっとした状態で35分からのホームルームに滑り込むのが日常だった。

家を出る時間は毎日変わらないので、途中で出会う顔ぶれもそうそう変わることはない。特にわたしはギリギリ組なので、自転車通学の学生にはあまり出会わなかった。

そんな中ほぼ毎日、20分すぎに大通りで合流する男子生徒がいた。
近くの高校の生徒でおそらく同じ学年だろう。
この時間ということは、多分彼もギリギリ組だ。

ふたりとも遅刻と戦っているのだから、自転車を漕ぐのに必死でお互いに顔なんてちゃんと見たこともない。
良くないことに、彼が合流してくる交差点は歩道が狭くなっているところで、自転車は1台しか通ることができなかった。

どちらが先に通過するか。

私は毎日、彼と勝負をしていた。
先を越された日には、後ろにぴったりついてプレッシャーをかけ、私が勝った日には後ろからの無言の圧を感じながら1.5倍速でペダルを漕いだ。
とはいえ男子と女子の差は悲しく、その後道が開けると一瞬で追い抜かれるのだが。

学校と後ろ姿しか知らない男子生徒。
漫画ならばここからドラマがはじまるのだろうが、交差点の勝負以外の接点は全くなく、卒業まで何も変わらなかった。現実なんてそんなものだ。
それでも数日見かけないと、体調を崩したのだろうかと心配し、また姿を見つけるとなんとなく安堵したものだ。

それから私は、学年が上がり学生生活が忙しくなるにつれてどんどん朝に弱くなり、親に車で送ってほしいと頭を下げる日が増えていった。
3年生の終わり頃になると、ほぼ毎日車通学(それもギリギリの)をしていた。
たまに車窓から見慣れた後ろ姿を見つけると、心のなかで楽をしてごめん、と謝った。
彼にしてみれば、知ったことではないと思うけれど。

8/15/2024, 8:09:34 AM