あれは魔術祝祭のときのことだ。我々の中で、わたしとわかる記憶。眩しい記憶。
国内で三番目に大きな街の、最も暑い時期にある祭りだった。路地ではない通りという通り全てに露天が立った。揚げ物も焼き物も酸いも甘いも全て魔術がかかっていた。この日だけ有効な魔術はあらゆることを可能にした。黄金の卵を産む雌鶏、一滴で人を虜にする媚薬、酒の尽きない瓶、食べ物が湧いてくる皿。
だがこの日一日だけ。
そんな品を高く売りつけようと、一日だけでもと買い求めようと、人が通りという通りを埋め尽くした。
だが、魔術師がひとたび現れると、人はさあっと道をあけた。深々と頭を下げる者もいる。
「魔術祝祭ってそんなものじゃないでしょ」
彼女がいつもの不機嫌で言う。わたしは周りに聞こえないように、と宥めながら先を聞く。
「魔術は魔術師から人へ与えられるものじゃない。誰にでも受け取ることができるもので、だから、魔術師を崇めるなんて」
彼女はぶつぶつ文句をいう。わたしたちには魔術祝祭でしなければならない魔術師としてのとても重要な仕事があって、しかもそれは民衆から敬われてしかるべきものだった。
わたしは、彼女は権力が嫌いなのだと思っていた。実際はそうではなくて、彼女はただ周りが見えていなかっただけだったんだ。今ならわかる。
「なら楽しめばいいじゃない」
わたしは彼女の口へ、串焼き肉をつきつける。彼女はいたずらっぽい目つきで串を奪い取る。
「世界よ魔術をありがとうって? この肉、手がべたべたするんじゃないの?」
「しないしない。それはべたべたしない魔術のかかった串焼き肉なの!」
7/28/2023, 2:16:14 PM