Open App

誰かしら?

駅のホームに立っていた。周りは誰もいない。空は薄曇り、風がひんやりと肌を撫でるだけだった。私は時計を見た。もうすぐ電車が来る。待つ時間が少しだけ長く感じる。

足音が近づいてくる。振り向くと、黒いコートを着た人物が一人、歩いてきた。その人は私を一瞥すると、何も言わずに隣に立った。特別な意味はないのかもしれない。ただ、静かな時間が流れた。

「誰かしら?」私はふと口を開いた。

その人は少し驚いたように見えたが、すぐに微笑んだ。そして、穏やかな声で答える。

「君が誰かしら、って思ったんじゃない?」

私は言葉が詰まった。確かにそうだ。私はただの見知らぬ人に声をかけた。こんな瞬間に、何かがつかめる気がした。けれども、それが何かはわからなかった。

電車が到着する音が遠くから聞こえてきた。その人は軽く頭を下げると、静かに歩き出した。

「またね。」

その言葉だけが、風に乗って私の耳に届いた。

私はその場に立ち尽くしたまま、電車が来るのを待った。

3/2/2025, 10:03:14 AM