この夢が、醒めなければいいのに。
何度そう思っただろうか。テストで100点を連続で取ったり、ピアノのコンクールで金賞をもらったり、街中でモデルにスカウトされたり……そんな可愛らしい夢はいつの間にか見なくなって、汚い欲望塗れの夢ばかりになってしまった。
大嫌いなあの子が堕落してゆく夢。その子に最後のトドメの一撃を食らわせた時に目が覚めた。とっても目覚めのいい朝だった。
会社のプロジェクトで私の原案が採用される夢。いつもは鼻で笑われて相手にもされないけれど、その日は特別社長が会議に参加して私の案を絶賛してくれた。努力はいつか報われる、喜びを噛み締めた丁度その時、けたたましいアラームが鳴った。
同僚の彼と結婚する夢。カノジョの不平不満を聞いてアドバイスするうちに仲良くなって、結婚まで漕ぎ着けた。薬指に嵌めたお揃いの指輪が噂話になっているのをニヤニヤしながら聞き耳を立てていた。でも、そんな素敵な物語も不快な音で断ち切られた。
もう少しだけ、夢を見ていたい。
いや。
ずっと、ずっと、夢を見ていたい。
私だけの、幸せな物語を、ずっと……。
私の願望は永久のものへと変わった。
どれだけ願ったところで叶うはずのない願い事だったが、ひとつだけ、方法があった。
*
「最近眠れなくって……」
困った顔で言うと、
「更年期のせいでしょうね」
と初老の医師はあっさりと診断を出した。
「睡眠薬出しておきますから」
瓶をひとつ処方してもらった。
ずっと夢を見るための魔法のお薬。これだけあれば、きっと大丈夫だろう。
1/13/2024, 1:39:47 PM